「東京五輪の中止を予言?」と話題再燃。私たちのなかに『AKIRA』は生きているのか

鉄雄に自己投影しても鉄雄になれなかった私たち

晴海の選手村予定地

晴海の選手村予定地はすでに建設も完了。ただ、ゲートから中には入れず

 だが、なぜヒップホップアーティストは『AKIRA』を好むのか。それを知るには、同作のキャラクターそのものを知る必要がある。この作品の主要なキャラクターは、全てをもっている男・金田正太郎と、そのかつての親友の島鉄雄である。金田はカッコいいバイクに乗り、いつも鉄雄の前を走っていた。だから鉄雄は金田を妬む。  そんな折、鉄雄は組織から逃げる超能力者と不意に激突し、事故に遭う。危うく一命をとりとめたが、彼もまた組織の実験体とされてしまう。そしてとうとう彼の力はコントロール不可能なものとなり、組織の大人たちは彼を殺そうとする。それに対して、鉄雄は反抗……いやそれどころではない。力の覚醒をもって彼らを黙らせるのだ。先ほど紹介したカニエの「stronger」では、カニエ自身が覚醒した鉄雄を演じ、敵をぶっ飛ばすシーンを再現している。  その強大な力は、ネオ東京を破壊。その後、彼は帝国を築きあげ、王であるかのように振る舞う。ヒップホップアーティストはこの鉄雄の「力」の面を評価し、自身となぞらえることでセルフエンパワメントしているようだ。おそらく私達読者もこのような読み味で『AKIRA』を堪能するのではないだろうか。  物語から一つの構図を取り出せば、大人と青年の対立といえるだろう。それも、大人が青年側を支配しようとするが、青年側の「覚醒」により圧倒的な勝利に終わるという物語だ。それだけに、「PARCO」や「supreme」で広告戦略を考える”大人たち”が「AKIRA」を利用することで若い世代にアプローチし、まんまと若い世代側もそれに絡め取られてしまうという現実は、皮肉なものである。仮に「AKIRA」が東京オリンピックの開催(あるいは中止?)の予言を的中させていたとしても、私達は『AKIRA』のキャラクターにはなりえなかったのだ……。

金田だったら……

 だがこんなオッサンの説教じみた評論を真に受ける必要はない。金田だったら、こんなものは読みもしないで、今もあのバイクでそこら中を走り回っていることだろう。鉄雄が薬に溺れながら、力を覚醒させる一方で、金田はただの度胸だけで最後の最後まで生き抜いてきた、自称「健康優良不良少年」である。  私も彼のように生きていく。金田のバイクはなくても、自分の人生のハンドルくらいは自分で握れるのだ。オリンピックが中止になろうと、東京が崩壊しようと、鉄雄にはなれないとしても、私は走り続けてやる――。「お前には無理」、そう言われたっていい。私の中には金田が生きている。だから、こう言い返すだけだ。「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」(でも私には出来るんだよ!) (注1)今回は、詳しく触れるスペースがないのだが、「PARCO」は6階でアニメ・ゲーム系のショップを、3階でストリート系のショップを新たに展開させている。アニメファンにも支持され、ストリートファッションとも親和性の高い「AKIRA」がオープニングイベントに起用されたのは、このような背景もまたあるからだろう。(参照:日経ビジネス「脱「若者ビル」、渋谷パルコの全方位作戦は功を奏すか」|2019年11月19日) <文/田中宏明>
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