「東京五輪の中止を予言?」と話題再燃。私たちのなかに『AKIRA』は生きているのか

 東京五輪の開催は、絶望的である。建設予定のスタジアムはすでに破壊されているし、高層ビル群は崩れ落ちた。我らが首都・ネオ東京は崩壊した――。もちろんこれはフィクションである。今から37年前に連載開始された大友克洋の『AKIRA』。  この作品が2020年の東京五輪を予言していたとして、今再び注目を集めている。ここ数年、人気ストリートブランド「supreme」とコラボしたり、渋谷に建設されていたPARCOの工事現場の壁に描かれたり、更にはNetflixでの新作アニメの製作が発表されるなど、AKIRAの人気は確実に再燃してきている。

東京の再開発とAKIRA再燃

 なぜ、今『AKIRA』なのか。2020年の東京五輪開催を「予言」していたことは確かにセンセーショナルである。最近も「東京オリンピック開催迄あと147日 国民の力で成功させよう」という看板に「中止だ中止」という落書きがされている描写が作中にあったことと、コロナウイルスの蔓延が結び付けられ、「本当に中止されるのでは」などという憶測も拡散した。(参照:J-castニュース)  しかし、これだけならば都市伝説のレベルに留まるワケだが、現に企業による『AKIRA』を使用した企画が実現されてきた。例えば、渋谷PARCOのウォールアート。2017年5月頃から約2年に渡り、その工事現場の壁いっぱいに漫画版『AKIRA』の絵が描かれていた。『AKIRA』といえば、高層ビル群の破壊と再生である。東京五輪に向けて再開発が進められた2019年の東京と『AKIRA』の世界は完全にシンクロする。  従来、2つのものを隔てるはずの壁だが、このウォールアートはAKIRAの世界(ネオ東京)と私たちの世界(東京)を繋げることに成功した。渋谷を訪れたAKIRAファンは、この写真を撮ってシェアした。SNSによってこのウォールアートはより多くの人に拡散された。こうして、2年間の工事という期間でさえ、見事PARCOは若者や渋谷の象徴であり続けた。予言のセンセーショナルさ、シェアしたくなるアート。『AKIRA』に白羽の矢が立ったのも頷ける。  しかし、一つの疑問が残る。新生PARCOは若者だけではなく、「全方位」の年齢層をターゲットにしているとはいえ(注1)、『AKIRA』は30年も前に連載が終わっている作品である。そもそも若い世代で人気があるのだろうか。

supremeとparcoの戦略

 2017年、若者に人気のストリートブランド「supreme」が『AKIRA』とコラボし、パーカーやTシャツが販売された。店の前には行列ができ、この時の商品は今でも高値で取引されている。なぜ『AKIRA』を身につけるかといえば、ファッションとしても絵がカッコイイからであるが、それだけではない。  世界で最も影響力のあるラッパー、カニエ・ウェストの「stronger」(2009)という曲がある。このMVは、現在までに3.3億回も再生されているが、モチーフとなっているのは『AKIRA』だ。MVに出てくるMRIのような機械は、まさに同作で鉄雄が検査をされていたときの機械そのものである。  日本のヒップホップシーンにおいても、ここ数年「AKIRA」にまつわるファッションやリリックがよく発信されている。例えば、vividboooyというアーティストは、「RELAXING」(2019)というMVで鉄雄のイラストがプリントされたTシャツを着ている。  他にも同作に関連する楽曲には、LIL Jの「AKIRA」(2019)、TENG GANG STARRの「Livin’ The Dream feat. MIYACHI」(2017)、Fuji Taito「Bangarang」(2017)ゆるふわギャングの「Dippin’ Shake」(2016)などがある。いずれの曲も、周りの人間や大人たちに幻滅しつつも、自身のかっこよさを自慢している所が興味深い。個人的には元気をもらえる。  このように、ヒップホップの楽曲を通して若い世代にも『AKIRA』が浸透してきているのである。私の所感ではあるが、ヒップホップのイベントに来る人たちは、とても若い。20代前半かそれ以下ではないか。  90年後半~00年代に生まれた彼らは、いわゆる「Z世代」にあたる。彼らの特徴として、デジタルネイティブであり、SNSに投稿したら話題になりそうなものを好むとされる。企業はその特徴を理解してマーケティングしようとしている。  要するに、『AKIRA』をモチーフにした楽曲が配信され、若い世代にも知られるようになり、コラボグッズが販売されると入手が困難になり高額化、さらに楽曲やコラボアイテムをSNSで多くの人がシェアし、コラボグッズへの需要がさらに大きくなり、売り上げが増加するという形だ。PARCOもsupremeも、このような戦略に基づいて、同作とのコラボを推進してきた。そしてそれが、若者の間での『AKIRA』の再燃に繋がっている。
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鉄雄に自己投影しても鉄雄になれなかった私たち
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