オートクレーブのない歯科には絶対に行ってはならない
タイの歯科で、ハンドピースその他の機材を滅菌処理したものと交換せずに使うことなどほぼありえないという。
「オートクレーブ」による滅菌処理を行い、全てを袋に入れ、毎回新しい患者が来るたびに目の前で袋を破って使う。
「オートクレーブ」とは、一言でいえば「高圧蒸気滅菌」である。圧力釜の中で120度を超える蒸気をあてて滅菌するわけだ。日本の歯科ではハンドピースの滅菌が完全義務化されていないこともあり、オートクレーブが入っていないか、入っていてもクラスNという一番レベルの低いものが多く、内部まで完全滅菌できるクラスBのものは数%しか導入されていないという(ちなみに、中国や韓国、タイも民間医療機関でのクラスBオートクレーブの普及率は日本より高い)。理由は、もはや耳にタコかもしれないが、「保険適用外だから」である。
「お宅にオートクレーブは導入されていますか?」と聞き、もし答えが「否」なら、その歯科には絶対行ってはいけない。血や唾液が直接介在する以上、HIV感染の可能性は絶対に否定できないのだ。もちろん、日本でも自由診療の歯科などはクラスBのオートクレーブも完備し、極めて清潔に気を使っている歯科もあるので、事前に確認することは必須である。
HIVはまだ感染力が弱いほうだが、肝炎ウィルスが感染することは十二分にありえる。つい最近、元広島カープ投手の北別府学氏が「成人T細胞白血病」を公表したが、実はこのタイプの白血病も歯科で感染する恐れがある。
だからこそ、タイの場合歯科医も看護師も「完全武装」する。
髪の毛が落ちないように帽子をかぶり、マスクと手袋はもちろん、その上に顔の前にプラスチックのプロテクターをつけることも珍しくない。その上で患者の顔の上にも口だけ開けた布をかけて保護する。
したがって、2014年に筆者が「大工事」を行った際、二週間バンコクに滞在して見たのは「真っ暗闇」のみだったと言っても過言ではない。朝十時から夜九時までぶっ続けで治療を行い、その間ずっと布をかけられたままだったから当然のことだ。
数年前、筆者の飲み友達に北欧某国の大使がいた。今は帰国してしまったが、一度「お宅の国の人たちは、歯科治療をどこで行うのか?」と聞いたことがあった。彼はこう答えた。
「私の国の歯科治療もそれほどひどいものではありませんから、自国で済ませる人が多いです。それでも、大掛かりで費用もかかる場合は、バンコクなら安い直行便がありますからタイでやる人も多いですね」
欧州においても、タイの歯科が「飛行機に乗ってでも」受けに行く価値があるものだという常識が浸透している証拠である。