注目とリスペクトを受ける#KuTooだが、運動が始まるきっかけとなった昨年1月24日のツイートは、直接的には高校卒業後、観光の専門学校に入学し、ホテルのラウンジに1ヶ月間、泊まり込みで働いていた頃の経験についてのものだ。
石川さんが当時働いていた葬儀社の仕事での現状と、10年前の経験と感覚を交差させて述べた「私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの」というツイートだが、これが女性たちが職業生活上、日常的に強いられているものの性格と、それに対しての疑問やモヤモヤ、こうあるべきだという思いを端的に表現していたことにより、共感を得ることになる。
「当時、葬儀社で仕事をしていたのですが、ヒールのあるパンプスの着用を指定されていたんですね。その時仕事が立て込んでいて、朝から晩まで6日間くらい連続で出勤していた時期があって、連続してパンプスを履き続けていたために小指から血が出てきてしまいました。そして、仕事中に男性社員の靴を揃えていて、その時におやっとなったんですね。男性はぺたんこの靴でいいのにって。
それをジェンダーの問題として認識できるようになったのは、それ以前に#MeTooに加わっていたからだと思います。過去にホテルの専門学校にいたときは、私が足が痛いのを我慢できないのがダメなんだと思って、自分が専門学校を辞めるという選択をしました。マナーだから仕方がないと思って、学生の頃から10年、深く考えずにきてしまったというのがあります。
靴のツイートについては、男女差別の問題というより、単純に『女性はヒールやパンプスを履かないといけなくて、足が痛いんだ』というものとして当初捉えた人が多いと思います。ヒールやパンプスについては、足を実際に怪我しているという問題があったのと、誰が見てもフラットシューズよりはきにくいというわかりやすい問題だった。それがあって広がったんだと思います。自分のこととして見ることができるというのが大きかったのではないでしょうか」
#MeTooの中で違和感を言語化できるようになった
石川さんもまた、#MeTooのムーブメントの中で変わっていった。他にはどういったところで、男女の差異、差別の問題を考えるようになったのだろうか。
「#MeTooのムーブメントに参加することで、自分が感じていた違和感を無視しないようになっていきました。性犯罪などで被害者である女性が責められたり、セクハラなども受け流せ、と言われてきたので、そう言うのもつぶやいていましたね。
靴の他にジェンダーの問題として気になったのは化粧の問題です。これも同じく10年くらい前のことです。当時パチンコ屋でアルバイトをしていましたが、店にすっぴんで出勤した女性に対して、店長が『化粧をしてこないと働かせられない』と家に帰してしまったんですね。
当時の私は、『店長は店の一番偉い人で、その人がそう言うなら仕方ない。言うことを聞かなきゃいけない』と思うしかなかった。ただ、男は化粧をしなくてもいいのかという違和感もありました。「化粧をしないと失礼だ」というのは要するに素顔のままだと失礼だということですが、むしろそうした価値観が失礼だろうと感じていたのですが、まだ考える能力がなかったので、もやもやしながら流していた、というのがありました。そういうことについても改めて考えるようになりました」
#MeTooに加わることで、生活の中で感じる違和感を言語化できるようになったという石川さん。女性たちがセクハラや性暴力に対して声を上げるムーブメントが石川さんをエンパワーメントし、さらなる運動へのつながっていったのだ。近日公開予定の続編では、「クソリプ」への対応や就活生のパンプスの問題について取り上げる。
<取材・文/福田慶太>
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。