重大インシデントで明らかになった伊方発電所に残る脆弱性
伊方3号炉は、すでに定検入りして二週間以上経過している原子炉ですので、
仮に全交流電源喪失(SBO)に陥っても一週間程度の余裕がありますので、直ちに何か起こるという事はありません。放射能バウンダリ(封じ込め)も、短時間ならば封じ込めが破れるわけではありません。従って、
このインシデントで所内、所外に何らかの大きな悪影響を及ぼすことは、ほぼあり得ません。
一方でインシデントは、
システムの弱点を写す鏡でもあります。従って、こういったインシデント、とくに重大インシデントが発生した場合は、極めて重要な
システム脆弱性点検の最大の機会であると考えねばなりません。そういった視点で見ると、今回の外部電源喪失重大インシデントは、
伊方3号炉に残る特有の外部電源系における脆弱性が示されていることが分かります。
例えば2020年1月20日に発生した外部電源喪失重大インシデントによって何が分かるか見てみましょう。
筆者は、この重大インシデント後に
伊方発電所の所内電力系統図を改めて見て強烈な違和感を持ちました。外部電源喪失重大インシデント発生以前には同じ図を見ても感じなかったものですので、インシデントから学ぶものはたいへんに大きいのです。
伊方発電所所内電力系統図を改めて見た感想は、
3号炉の外部電源に独立性という点で見劣りがし、不安定さを強く感じるというものでした。何らかの外部擾乱によって3号炉50万kV送電線が異常停止したとき同時に1,2号炉に何らかの大きな異常が発生した場合、3号炉は外部電源を失う可能性があります。
筆者は66kV受電の入り口である亀浦変電所近辺でよく写真を撮影しますが、この66kV支線は、伊方発電所の緊急時における最大級の防衛拠点になるとたいへんに頼もしく思ってきました。
ところが、この
66kV平碆支線に3号炉は接続されていないのです。これには心底驚きました。
これらの図から分かるように、現在の伊方発電所3号炉の外部電源には、
四国電力と原子力安全委員会(当時)が共に認めた脆弱性が現在も残存しています。また北海道電力泊では、すでに対策がなされており、所内だけについては考え得る限り十分な冗長性を持っています。
今回連続して発生した重要、重大インシデントの中で最後に発生した外部電源喪失重大インシデントは、明らかに今までに改善がなされなかった伊方発電所の脆弱性が現実の重大インシデントになったものです。
工学上の経験則である
ハインリッヒの法則*が示すように、
アクシデント、重大事故の背後には多くの中度、軽度のインシデントが存在し、更に幾つかの重大インシデントが存在します。
〈*ハインリッヒの法則という極めて有名且つ常識となっている法則がある。簡単に言えば、事故(アクシデント)の背後にはその前兆事象として数多くのインシデントが存在するというものである。
伊方発電所の場合、公開されているだけでも2020年のインシデントの多さが気になっていたが、第15回定検で僅か二週間に重大・重要インシデント3件という前代未聞のきわめて深刻な事態となっている。
今後は、すべてのインシデントについて詳細な分析と対策をした上で職場を再建する他なく、これには数年を要するであろう〉
特重工事中であるとは言え、
インシデントの多発が疑われ、更に重要・重大インシデントが多数発生しているのが伊方発電所の現状であり、
その運営、組織、設備に何らかの重大な問題が存在していると考えるのがハインリッヒの法則に従った基本的な考えです。
勿論これは伊方発電所の存在を否定するものではなく、
今後重大事故が起こらないようにするために、インシデントについて分析を徹底的に行い、抜本的な対策を行う事によって将来の重大事故は抑止されますし、日常におけるインシデントを減らすこともできます。
インシデントはその組織の鏡です。鏡に映った姿は真の姿であり、真摯に受け止めることが必須と言えます。
例えば福島核災害を起こした
東京電力福島第一原子力発電所ですが、福島核災害のわずか9か月前に2号炉外部電源喪失と原子炉水位の2m低下(福島核災害後の2011年5月まで非公表)という極めて重大なインシデントを起こしながらわずか1か月で、協力会社社員の肘鉄(ひじてつ)が原因という報告を出して操業再開しました*。これは福島核災害には直接は関わりませんが、このような
極めて重大なインシデントすら隠蔽し、軽視する当時の東京電力の実態を示しています。事実、2011年3月11日に東京電力はなすすべも無く人類史上最悪と言える核災害を起こし、僥倖といえるいくつもの偶然と幸運がなければ、カスケード核災害(連続核災害)によって東日本の大部分を日本は失うところでした。
〈*
福島第1原発、2010年にも電源喪失事故 2011/06/15ウォールストリートジャーナル・ロイター〉
インシデントを軽視する事業者は極めて危険かつ有害です。