ペット高齢化によって需要増。動物義足職人が語る熱い思い

動物義足職人

義肢装具士・島田旭緒氏 (撮影/杉原洋平)

 ペットの高齢化によって健康リスクが増大し、義足や装具の必要性が年々高まってきている。そこで今回は、動物を専門とする日本唯一の義肢装具士・島田旭緒(あきお)氏に密着。その熱い想いを聞いた。

動物の体と生活を気遣い義足や装具を作っていく

 ペットの高齢化が進んでいる。’19年12月に発表されたペット統計データ集『家庭どうぶつ白書2019』(アニコム)によると、’17年における犬の平均寿命は14歳、猫は14.2歳。’08年からの10年間で犬は0.7歳、猫は0.5歳も延びていることがわかった。これは人間の年齢に換算すると、犬は約5歳分、猫は約3.5歳分になる。同期間の日本人の平均寿命の延びは、男性が1.8歳、女性は1.2歳(厚生労働省・統計調査より)。犬・猫が飛躍的に長寿化しているのが見て取れる。ペットが長生きしてくれるのは喜ばしいが、それに伴い健康リスクに頭を悩ます飼い主も増えている。 動物義足職人 こうした獣医療業界で今、注目を集めているのが、動物を専門とする日本で唯一の義肢装具士・島田旭緒氏だ。 「先のデータの通り、獣医療技術の進歩、室内犬の増加、ペットにかける医療費の増大やペットフードの高品質化を背景に、犬や猫の高齢化が進んでいます。その結果、椎間板ヘルニア、靭帯損傷といった病気になるペットが増えています。症状だけ見れば手術で治るケースでも、年齢や体力的なリスクを考えると踏み出すのは厳しい。こうした事情から動物の装具や義足の重要性が高まっているのです」

動物用の義肢装具がないことへの素朴な疑問

 島田氏は高校を卒業後、国家資格である人間の義肢装具士免許の取得を目指して専門学校に通った。なので最初から動物のエキスパートを目指していたわけではない。 「工場で働いていた祖父が、業務中に鉄の破片が片目を直撃して失明し、義眼を入れていました。さらに、プレス機に左手を挟まれて親指以外の4本の指も失った。そんな祖父の姿を見て育ったのもあり、いつか身体に障害のある人たちのため役に立ちたいという気持ちが芽生えていったんです」  祖父に装具を作ることは叶わなかったが、もの作りへの思いが冷めることは決してなかった。 「授業で取り上げられるのは人の義肢装具ばかり。動物用がないことに疑問を感じ、動物の義肢装具を題材に卒論を書きました。そこで、動物病院100軒と飼い主200人に『動物の義肢装具が必要か?』というアンケートを取ったところ、“効果があるなら試したい”という人が7割もいたんです。需要があるのは確信しましたが、とはいえ先例がなく、この時点ではまだ何から手をつけていいかわかりませんでした」  専門学校を卒業した後、人間の義肢装具を製作する会社に就職。そんなある日、会社の上司が飼っていたチワワが事故に遭い、背骨を骨折。手術をすることになる。 「背骨を固定する必要があったのですが、コルセットを装着したチワワが薄い布団です巻きにされたような姿で。人間なら症状に合った装具を義肢装具士に依頼できるのに、当時は誰も動物の装具を作れる人がいなかった。現場の獣医師が診察の合間を縫って自作するしかなかったんです」  残っていた心の靄が薄らいでいく心地だった。 「自作のコルセットを片手に、先の獣医師に教えを請いに行ったら動物の患者を紹介してもらえるようになったんです」
動物義足職人

頸椎を損傷し、頸椎の運動制限や姿勢維持のために下顎から胸骨全体までを覆っている。頭部の装具は周辺の運動を制限する効果も

「人と犬や猫は体の構造がものすごく似ています」と島田氏が言うように、平日は製作会社で義肢装具士として研鑽を積み、土日は動物用の義肢装具の研究に没頭した。 「3年間で立ち合った症例はおよそ60件。その間に作った義足や装具は無料で飼い主に提供しました」
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