伊方原発3号炉差し止め仮処分決定の決定要旨からわかる、原発規制委による極めて杜撰で作為的なリスク評価

今回決定の特徴(火山事象の影響に対する安全性など)

阿蘇山からの等距離円

阿蘇山からの等距離円 50km刻み
意外かもしれないが、阿蘇山からの距離は伊方発電所が最も近い。次いで上関原子力発電所(予定)と玄海原子力発電所が続き川内原子力発電所がいちばん遠い。しかしすべての原子炉が100マイル(160km)圏内に立地する。
伊方発電所と上関原子力発電所は、途中に海を挟むが、火砕流は海上を時速100km前後と特急列車なみの速度で疾走するために海は障壁とならない。
過去に生じた阿蘇4破局噴火級の場合この地図で表示されるよりも広範囲で九州中四国の生物は、ほぼ死滅するし、関東甲信越まで20cmを超える降下物のために膨大な死と飢餓、「文明の消失」が起き、社会は完全に崩壊するとされる。地球史的には比較的短期周期に、人類史的にはたいへんに長い周期で繰り返されている。このような巨大カルデラが日本にはいくつも存在するためにリスク評価と社会的合意の形成は極めて難しい
国土地理院地形図より

四国最西端である佐田岬灯台から見た佐賀関(九州)

四国最西端である佐田岬灯台から見た佐賀関(九州) 2015/08/11撮影 牧田
九州と四国を豊後水道が隔てるが、火砕流は海上を時速100km前後で疾走するために海は障壁とならない。

◆争点4)火山事象の影響に対する安全性
 山口ルート広島高裁判断でも立地評価において判断材料として使われた火山ガイドについては「検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で予測できることを前提とする部分は不合理である」とバッサリ切り捨てられています。  この部分は火山ガイドの致命的欠陥であって、電力会社による動きにもかかわらず、筆者の見る限り、火山学者での賛同者は全く増えていないように思われます。この部分はエセ科学と言っても良い部分であって放置すれば原子力許認可行政を崩壊させかねません。火山学者の関与があまりない状態で拙速に火山ガイドを作るからこのようなことになるのです。  これが世界有数の火山国であり、かつ50基近い商用原子炉が存在する国の実態です。繰り返しますが、火山ガイドはエセ科学と言うほかない要素を含んでいます。結果として司法判断の場でも厳しい批判に晒されています。 i)立地評価について  決定文では、火山ガイドの不合理部分を排除した上で検討対象火山(阿蘇山)の過去最大の噴火規模を想定することとなり、阿蘇4噴火(VEI7)*について火砕流が伊方発電所敷地に達した可能性が十分小さいとは言えないとしています。 〈*火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI):1982年に提唱された火山の爆発の規模を示す区分である。阿蘇4は、VEI7であり、九州近辺には他に姶良カルデラ(鹿児島湾)、鬼界カルデラ(大隅海峡)が知られる。約三万年前の姶良カルデラ噴火では、九州中四国で繁栄しつつあった人類を完全に消滅させ、関東平野も厚さ10cmの堆積物(雪と異なり溶けてなくならない)に見舞われたとされる〉
VEIごとのテフラ(空中を介して移動した火山砕屑物の総称)の量

VEIごとのテフラ(空中を介して移動した火山砕屑物の総称)の量を円で示したもの
VEI7でも1815年に噴火しており、VIE6になると歴史の尺度では珍しくはない自然現象である
image via Wikimedia Commons(Public Domain)

 決定文では、火山噴火予知の可能性を不合理であると否定していますので、四国電力側の主張である、「噴火の前兆現象が無い限り巨大噴火の可能性が十分に小さいと見做せる」が否定され、「各種の科学的調査の結果に基づく評価という火山ガイドの定めから逸脱しており採用できない」としています。  決定文にもあるとおり、阿蘇4噴火が実際に起こった場合、死者数は1千万人を超え、生存者も海外への移住や避難を要する、「文明の消失」によって日本という国はなくなるわけですが、そのような場合において、申立人を含めた周辺住民は、伊方発電所が崩壊してもしなくても生命、身体、生活に甚大な打撃を受けます*。 〈*簡単に言えば、火砕流で焼け死ぬか、降下物で窒息死するか泥流で押し流されることによって九州中四国の住人はほぼ全滅する。勿論、原子力・核施設は完全に人類の制御を外れ、放射性物質を大量かつ半永久的に放出し続けることとなる。筆者はこれを「核火山」と呼称している〉  一方、他の法規制においてこのような状況を想定した防災対策は存在しておらず、阿蘇4噴火のようなVEI7級の“破局的噴火のリスクに対する社会通念は、それ以外の自然現象に関するものとは異なり、これを相当程度容認しているといわざるを得ないから、破局的噴火による火砕流が原子力発電所施設に到達する可能性を否定できないからといって、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する。”として、原審を踏襲しています。  これを平たく言えば、歴史的尺度では世界で数例しかないVEI7級破局噴火については、法制度も社会もその存在を考慮せずに社会は存在しているということで、例えば姶良破局噴火のようなVEI7級噴火を考えれば鹿児島市は存在し得ないし、九州のほぼ全域は居住不可となるわけで、それを全く規制しない=VEI7級の噴火をリスクとして認識しない事を社会通念と評価したものと思われます。  この決定要旨p6-p7では、上記の他にも両論を併記しつつ、最終的には”本件原子炉施設は立地不適とはいえない”と結論し原審踏襲となっています。  この判断に賛成不賛成を問わず、司法判断の手法がよく分かる文書ですのでゆっくり時間をかけて一喜一憂せずに読むとたいへんに面白いです。  高裁判断では、火山影響に関わる立地評価については、原審を踏襲して四国電力の主張を認めています。

立地不適格ではないとしつつも申立人の主張を認めた

ii)影響評価について  高裁判断では、火山影響に関わる立地評価については、原審通り四国電力の主張を認め、立地不適格ではないとしています。一方で、この影響評価では原審決定を翻して申立人の主張を認めています。 “阿蘇については、破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火(噴出量数十立方キロメートル)の噴火規模を考慮すべきであるところ、その噴出量を20〜30立方キロメートルとしても、四国電力が想定した噴出量の約3〜5倍に上ることになるから、四国電力による降下火砕物の想定は過小であり、これを前提として算定された大気中濃度の想定も過小であって、このような過小な想定を前提としてなされた本件原子炉に係る原子炉設置変更許可等の申請及びこれを前提とした規制委員会の判断も不合理である*。”としています。 〈*広島高裁は、例え阿蘇山が破局的噴火を起こさなかった場合=VEI6以下であっても想定される降下物の想定が四国電力によって著しく過小評価されており、それを認めたNRAの判断も科学的に合理性を欠いているという判断をしている〉  NRAの判断に合理性が欠いていることから、仮処分申立人の生命、身体に重大な被害を受けるという具体的な危険性が無いということを債務者(四国電力)は証明できていないということとなり、結果として債権者(仮処分申立人)の主張は、証明されたという結論を導いています。  ここまでの理路は、前回説明した争点、1)司法審査の在り方そのものとなっています。  まとめますと、火山影響について広島高裁は、立地評価については四国電力の主張を認め立地不適格ではないとし、火山噴火の影響評価については阿蘇噴火を例に、破局噴火に至らずVEI6以下の歴史的尺度で発生のあり得る大規模噴火であっても、四国電力による評価は過小評価であり、NRAの適合性審査の科学的合理性を損なっていると結論し、申立人(原告)の主張を認めています。  また決定文のなかで火山ガイドの不備を「検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で予測できることを前提とする部分は不合理である」と明確に厳しく指摘しており、裁判所による火山ガイドへの批判例がまた一つ積み重なりました。 ◆争点5)保全の必要性  結果として前回解説の地震震源となる活断層評価と今回解説の火山影響の評価の二点において、“本件原子炉は、現在稼働中であり、その運用によって抗告人らの生命、身体等に重大な被害を受ける具体的危険があるから、保全の必要性が認められる。”として四国電力の主張を退け、原審決定を取り消し、伊方3号炉の運転を差し止めました。  決定文要旨では、四国電力が、本訴確定判決が出るまでの間に火山噴火によって伊方3号炉が甚大な影響を受けて放射能を大量に放出するような事態を(原告側が)証明せねばならないと主張しているとしつつも、“現在の科学技術水準によれば、火山の噴火の時期及び規模を予測できるとしても精々数日から数週間程度前にしか予測できないから、本案訴訟の確定判決が得られる前にそのような事態が生じることもあり得るのであって、本件において保全の必要がないとは言えない。”としています。  結果として、運転停止期間を本訴第一審判決言い渡しまでとし、伊方三号炉の運転を差し止める仮処分決定を行い、担保を付しませんでした。
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