物議を醸した芸人による教育系You Tube動画。数学で信頼できる動画の見分け方とは

不勉強な動画の解説はこうなる

 しかし、「不勉強動画」では、これがA、B、Cの順ではなく、A、C、Bの順に並びます。  つまり、次のようになります。 【A】相加・相乗平均の不等式より、x+1/x≧2である。(この部分を丁寧に説明する) 【C】だから、x+1/xの最小値は2である。 【B】ところで、等号成立する場合も書いておこう。それは、x=1のときだ。 数式 のようになります。つまり、BとCのどちらが先かで、不勉強動画かどうかの判定ができます。もちろん、 Bが先→正しい動画 Cが先→不勉強動画 となります。本来、AとBがいえて初めてCがいえるのですが、不勉強動画の作成者たちは、AがいえていればそれだけでCがいえると思っているので、このような誤りは他の場面でも繰り返します。(コーシー・シュワルツの不等式の利用など)  他の部分でも見分けることはできますが、この項目が解説者の力差が現れる部分なのです。

ケアレスミスではなく、学力不足

 さて、不勉強動画を流している人の深刻な点は、事の重大性を理解していない(理解できない)点にあります。すなわち、「指摘されたことは単なるケアレスミスである」と言い切ります。ですので、高校生に指摘されても「ごめん、ごめん。単純な勘違いしていたよ。」という言い訳になります。  ところが、専門家から見るとこのような間違い方は偶然起こったケアレスミスではなく、その部分を正しく理解していないから、すなわち学力不足であることが原因であることがわかってしまいます。中には、ケアレスミスと指摘された内容を10箇所以上繰り返しているものもあります。そもそもそのような不勉強動画を流す人は、 (a)「すべての実数xに対してx^2+1≧0」が誤りだと思っている。(これは正しい) (b)「すべての実数xに対してx^2+1≧0」と「x^2+1の取り得る範囲はx^2+1≧0」の違いがわかっていない。(前者は正しく、後者は誤り) (c)「3≧2は等号が入っているから誤りだ」と思っている。(3≧2は正しい) 数式 のような点からボタンを掛け違えているので、フェイク動画を何度も何度も流し続けます。そして、ここを見ている高校生は、「わかりやすく誤りを教わっている」ことに気がつかず、「わかりやすい」という評価を与えます。特に、丁寧な口調、さわやかな外見、自信たっぷりな発言に心を奪われてしまいますが、誤りは誤りなのです。  ところで、専門家から見ると、不勉強動画を流す人が誤りを指摘されていたときにどのような態度をとるかで、この一件だけでもその人の内面が透けて見えてきます。それは、 「自分が間違っていたことを指摘されたときに、何とか理由をつけてごまかそう(逃げ切ろう)とするかどうか」 です。そのような人であれば、他にも怪しいところはあるだろうと考えられます。  正しい動画を流している人と不勉強動画を流している人の人数はどのくらいの割合なのかと言えば、私の調べでは正しい動画を流している人の方が多かったのですが、不勉強動画を流している人は、その動画の本数も多く、高校生の目に留まる確率はそれなりに高いのが現状です。  また、不勉強動画を流す人に限らず、高校生のために教育系動画をあげてくれている人たちは、その動画が一つの「作品」と言う認識が高く、その作品を誇り高く考えている人が多いようです。しかしながら、誤りは誤りですので、誤りを指摘されても「自分の作品にケチをつけているだけ」と考えているようでは困ります。  この動画で学習して大丈夫だろうかと思う高校生は、twitterで私に質問を投げかけていただければ時間の許す限り調査はしています。 <文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 
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