毎年、この季節になると確定申告の申請時期となる。今や年間2100万人以上の人が確定申告をし、半数以上が還付、つまり税金を返してもらう申告をする。その中の多くが医療費控除による還付だ。ご存知のように一般的に、病院などの窓口で支払った医療費や、処方箋によって受け取った薬だけでなく自らの判断で買った病気を治すため薬代、入院費用、医療機関に通うための公共交通の交通費、それも生計を同じくする家族全員分で10万円以上の自己負担があった場合は税金の還付の対象になる。
例えば、先の保険料の例のような45歳から毎月1万6000円を医療保険に払ってきたハーバー家があるとする。一家では昨年は妻が病気で入院し、家から離れて暮らしている大学生の息子がスキーのケガをするなどして、40万円の医療費の自己負担があった。40万円から10万円を引いた30万円分が医療費控除の対象となると考えて、確定申告をすれば、自らの所得税水準から考えて、そのうちの20%の6万円が戻ってくると試算していた。6万円あれば、妻の快復祝いに温泉にでもいけるなと計画をした。また昨年は、妻の入金給付金などで生命保険から20万円の保険金の支払いがあり、不幸中の幸いだなとも思った。もちろん、この20万円をもらうために、ハーバー家は毎年19万2000円の医療保険の掛け金を払っているわけだから、払い込んだ保険料の一部を戻してもらったという感覚だ。
しかし、確定申告をする段階でびっくりすることが起きたのだ。それは、30万円が確定申告における医療費控除の対象だと考えていたのだが、保険会社から保険金として得た20万円を差し引かなくてはならないことに気がついたからだ。こうなると、医療費控除の対象は30万円でなく10万円のみとなる。これでは2万円しか戻ってこない。つまり、生命保険会社の医療保険に入っていない場合は6万円戻っても、自ら努力して支払った保険料のおかげでもらえた保険金があると、控除の対象が減ってしまう。このような事例を体験することによって多くの人がこう思うはずなのだ。そういう制度なら高額な医療保険に頼らず、将来は医療費もかかるだろうと、自ら貯蓄しておけば戻ってくる税金も減らずに済んだのにと、だ。このような税制はおかしくないだろうか?
医療に関わる税制、医療費負担はおかしなことばかりだ。例えば、生命保険会社に払い込む掛け金は確定申告でその一部は控除の対象になるが、病気にならないよう、早期発見できるようにと受診する人間ドックや予防注射などは医療費控除の対象にならない。また、例によって所得控除のために、同じ医療費の自己負担があったとしても、負担感の少ない高所得者のほうが確定申告で戻ってくる金額が多くなる。同じ医療費負担であれば、所得にかかわらず同じ金額の税金が戻ってくるべきだと思うのは私だけだろうか。ちなみにハーバー氏は、その後、国税の所得税だけでなく、医療費の確定申告をしたおかげで、住民税も若干戻ってきたことも付け加えておきたい。
政治は医療費や年金財政の深刻さをことさらに強調し国民全員に新たな負担を求めているが、それはそれぞれの制度の抜本的な改革に手をつけないからだ。放置されてる不合理、ヘンテコな部分の改革がまずは必要である。しかし、多くの国民はその実態に気がつかず、メディアも報道しないからか、改革しようという動きにつながっていかない。私たちは素直に負担を受け入れる前に、ここが変だ、ここを変えるべきだともっと声をあげるべきではないだろうか。
<文/佐藤治彦>