前出の吉田氏も同様の見方だ。
「金の上昇は、米国の『実態なき株高への不安』も一因だ。トランプ大統領は選挙に向けて、市場のムード改善による株高を誘発する可能性があり、実態経済の改善が見られなければ、今後、株価と実態の乖離はさらに広がるだろう。乖離の拡大は不安の増幅要因になり、金の上昇要因になる。一方、原油もOPECプラスの減産は3月までは続く。米国などの増産をこの減産が相殺する格好で、需給は緩みにくいだろう。また、9月にOPECは設立60周年を迎える。組織が一枚岩であることをアピールするためにも減産を維持する可能性が高い。さらにトランプ大統領は11月の選挙を見据え、株高を維持すると見られ、原油需要増加への期待が高まる。これらは当然、原油の上昇要因になるでしょう」
金と原油価格の上昇が、コモディティ全体を牽引するのか? 「有事」に備える投資法を吉田氏に教えてもらった。
「コモディティ全体に影響は及ばないが、金がほかの貴金属の上昇を牽引している。プラチナは現在、900ドル台で底堅く推移しているが、これはリーマンショック後の急落時とほぼ同じ水準で歴史的な安値圏。割安感があり長期的に投資するのもいい。一方、パラジウムは現在2100ドル台前半だが、1年前に比べて60%以上も高い水準にある。トレンドフォローで勢いのあるとき、短期的な上昇を狙いたい。投資するなら、手軽なETFがいいでしょうね」
一方、前出の深野氏は原油への投資法をこう伝授してくれた。
「原油のETNには、2倍のレバレッジがかかる原油ダブル・ブル ETN(2038)や、原油価格が下がると上昇するベア型の原油ベアETN(2039)もあるので、下落時でも投資できます」
今回急騰したもう一つの金融商品が暗号資産のビットコインだ。米国とイランの対立が激化して以降、ジリジリと上げ始め、14日には94万円突破。イランでは取引価格が3万ドル超と4倍以上に暴騰したのだ。金融ライターの児山将氏が話す。
「イランのビットコイン暴騰は、新興国では有事の際、自国通貨不安に陥りやすく、“避難通貨”として資金が流入したのが原因でしょう。過去にブラジルやトルコで自国通貨が暴落したとき、レアル建てやリラ建てのビットコインだけが倍ほどに急騰しました」
新興国特有の事情を理解していれば、こうした投資法もあるのだ。
’73年 第4次中東戦争~第1次オイルショック――10月、イスラエルとアラブ連合の間で第4次中東戦争が勃発。原油価格が高騰し、石油輸入国の経済に大きな打撃を与えた第1次オイルショックが発生する。ハイパーインフレが起こり、金の価格は’74年にかけて急上昇した
’78年 イラン革命~第2次オイルショック――イラン革命をきっかけに第2次オイルショックが発生。さらに’79年12月、ソ連のアフガニスタン侵攻で東西両陣営の緊張が高まり、安全資産の金にマネーが流入した。’80年1月、ロンドン金は史上最高値の850ドルを記録
’90年 イラク、クウェート侵攻~湾岸戦争――8月、イラクがクウェートを侵攻。中東情勢の緊張長期化、原油価格高騰を受け、金価格は400ドル台まで回復した。’91年1月、多国籍軍とイラクの間に湾岸戦争が勃発すると金は急騰するも、早期解決の見通しにより急反落する
’01年 米国同時多発テロ――9月11日、米国同時多発テロが発生。米国と米ドルへの信頼が揺らぎ、ドル建て資産から金への逃避が一気に加速する。同時期、米国ではITバブルが崩壊し、金の価値を見直す動きが強まっており、金相場は上昇トレンドへ突入する
’03年 イラク戦争――戦争前夜の1月、中東情勢の緊迫化から一気にドル安・株安となり、金価格が急騰。380ドル台まで急伸した。だが3月にイラク戦争が開戦すると、戦争終結間近との観測が売りを呼び、金価格は急落することに
【楽天証券経済研究所・吉田 哲氏】
コモディティアナリスト。’07年よりアナリストとして銘柄分析など情報を配信。ビギナーから上級者まで、わかりやすく役立つ解説に定評
【ファイナンシャルリサーチ代表・深野康彦氏】
ファイナンシャルプランナーとしての評価が高い。近著『10万円ではじめる! 人生100年時代の資産運用』(宝島社)ほか著書多数
【金融ライター・児山 将氏】
金融メディアを経て、個人投資家、ライターとして活躍。株式、FX、CFDから仮想通貨まで、幅広く投資。ネットメディアを中心に記事を執筆
取材・文/斎藤武宏 写真/時事通信社 THE U.S.ARMY