グアテマラの「ゆすり犯罪」、10件中7件が刑務所内から囚人が携帯電話を利用して行っていた

刑務所

Ichigo121212 via Pixabay

移民への差別と排除が生んだ暴力組織

 暴力と貧困が支配する中米のグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル。彼らの生活の源は農業が中心だ。しかし、非生産的な農業の域から抜け出ることはなく、効率性の低い農業を一生続けねばならない。この3か国の貧困層は社会の6割を占めている。それを本来改善せねばならない政治は汚職が蔓延り経済の発展は望めない。しかも、この3か国は70年代後半から90年代にかけて内戦を経験していることから国の発展は妨げられた。  このような社会をさらに困難にしているのが暴力組織「MS-13」と「La Mara 18」の存在である。若者が中心となった凶暴な犯罪組織だ。そのルーツは米国のカリフォルニアだ。80年代から90年代にかけてエルサルバドルからの移民を守る為に生まれた暴力組織がMS-13であった。彼らは自国が内戦の時にその残虐さを子供の頃に見て育った若者たちだ。  彼らは家族の一員として米国に移民したが、彼らにまともに働ける場所はなく、それが暴力組織を生んだ。彼らの非道に困り果てた米国は、彼らを出身国であるエルサルバドルに送還。それがその後、中米3か国にMS-13 が普及する要因となったのだ。

凶悪組織の名を騙り刑務所から指示されるゆすり

 米国のMS-13のメンバーを含め、中米を主体にMS-13は7万人から10万人で構成されているという。MS-13に対抗して生まれたのがLa Mara 18である。  彼らの収入源は麻薬の密売を始め、恐喝、武器の販売、誘拐、盗難、そして殺害も依頼されれば実行する組織だ。  このような社会事情を抱えた3か国で、昨年11月末に中米の主要電子紙がほぼ同時でグアテマラで10件のゆすりのうち7件が、刑務所からの指示で実行されているという報道をしているのを筆者は目にした。  それは一時的な現象ではなく、もう長く続いている現象だという。しかも、そのゆすりを実行している囚人は前述した二つの犯罪組織のメンバーではなく、この二つの犯罪組織の存在を餌に利用して、あたかもこの犯罪組織のメンバーであるかのように偽ってゆすりを実行しているというのである。しかも、ゆすりをするのに使っているのが携帯電話だというのがまた注目を惹く。(参照:「Prensa Latina」)  これらの報道内容によると、2018年のゆすりの件数は9939件、昨年10月までで既に13203件だという。  警察のゆすり対策本部のダビッド・ボテオ部長によると、このゆすりが横行し始めたのは2012年頃からだそうだ。刑務所の鉄格子から携帯電話でのゆすりが始まったのである。2013年に携帯電話の刑務所内での使用は禁止されたが、そのような法律は刑務所では完全に無視されている。何しろ、携帯電話を外部から持ち込んでいるのが囚人ではなく、彼らを監視する刑務官だというのである。勿論、それはお金と引き換えだ。それを拒否しようとする刑務官は殺害されることを心配しなければならなくなる。  また、刑務所内での携帯電話の使用を容易にさせているのは刑務所で収容可能な囚人を遥かに超える囚人が収容されていることから、刑務官が彼らをコントロールするということ事態が不可能になっているという事情もある。  例えば、人口3万人の都市カンテルにあるラ・グランハ刑務所では6000人が収容人員であるのに実際には25296人の囚人が収容されているという。昨年7月に1400人の警官が一斉に刑務所内で携帯電話の押収を行おうとしたが、200個のバッテリー充電器は押収したが、見つけた携帯電話は僅かに11台だったそうだ。1台に1つの充電器があるとした場合は189台の携帯電話が隠されているということになる。(参照:「Insight Crime」)
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刑務所の中から200回も電話をかける囚人
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