リーダーの不在、新しいSNSがつなぐ新しい思考と行動
ではなぜ彼らはその偶然性、流動性を今のところ味方につけているのだろうか?
「4年前にあって今ないもの、逆に4年前になくて今あるものとは?」
20代香港人青年Aは語る。
「ひとつは
、圧倒的な危機感。雨傘の時はまだ漠然としていた、鋭い人だけが気づいていた。このままじゃダメだ。批評的な思考をする教育を受けた人たちが気づき行動の中心になった。今回は送中条例の制定に向けてその危機感が具体化したし、何より、香港警察の非人道的な動きがそれを体感に変えた。【狗(イヌ)】(警察)たちの振る舞いの暴力性が、香港人に危機感を実感させて気づきを与えたと思う。
ネットの中継や市民たちの切り取った動画がリアルタイムで複眼的にそれを暴いた。権力の横暴は日々、記録され世界に拡散された。あとは、
リーダーがいないこと。そして
telegram 」
20代香港人女性Bもこう語ってくれた。
「telegramの秘匿性とLIHKGによる決定権の民主化は大きいと思います。リアルタイムで思考し意思決定しながら行動する、この速度で私たちは香港政府を陽動した」
◆telegram
telegramとは、日本で言うならばLINEに相当するものだが、開発されたロシアで政府に個人情報を一切提供しなかったことにより、その暗号化や秘匿性に信頼がある。(これによりロシア国内では使用禁止となった)LINEのようにある1人を逮捕し個人情報を掴めば芋づる式にネットワークを把握されるというリスクが極めて低いのである。よって法律の網目とぎりぎりの攻防を続ける市民的不服従、レジスタンスとは親和性が高く、香港市民の間で爆発的に広まっている。
チャットだけではなく、LINE@のように情報を一方通行で共有するグループも数え切れないほどある。グループは用途ごとに細分化されていて、24時間、香港のデモにまつわる最新情報が飛び込んでくる板には28万人以上が登録している。デモを拡散するための画像や動画を貼っていく板にも20万人以上。10万人以上のグループがごろごろあるのだ。これが24時間機能し、今、東京にいるの私の部屋までも届く。※ちなみに私が香港市民と立ち上げたグループもある。
telegramでシェアされSNSを駆け巡った画像の一例。国家と市民の暴力の非対称性や、国家の暴力には何も言わず、デモ隊の行為だけを批判する層をアイロニカルに描いている。
例えば絵師と呼ばれる人々(日本ではテレビドラマの名シーンなどをオリジナルの絵にして再現する人々)がデモの現場で起こったことを題材にし積極的に表現を続けたことも、とても重要だ。あるヒューマンチェーンで起こった微笑ましい出来事も、即座に市井の絵師たちによってネタ化され広まった。