冬になるとやる気がなくなる……それって「季節性感情障害」の可能性も

季節性感情障害 「冬になると疲れやすく、気分が落ち込み引きこもりがち、そして過食と過眠、体重が増える。春や夏に症状が軽くなるものの、秋になるとまた戻る……」、このような症状は、季節性感情障害という病気が原因かもしれません。  実際、私が住んでいる米ニューイングランドでは9%もの人が季節性感情障害に苦しんでいます。日本でも同じような症状に悩んでいる方が多いでしょう。今回は、季節性感情障害についてのお話です。

季節性感情障害ってどんな病気

 季節性感情障害は、今から約35年前に、ノーマン・ローゼンタール医師らが特定し名付けました。南アフリカ生まれのローゼンタール医師は、ウィットウォータースランド大学で医療の研修を行った後、米国に移住し米国立衛生研究所でキャリアを積みました。  そして1984年、米医師会が発行する「JAMA精神医学(当時Archives of General Psychiatry)」に29人の季節性感情障害について説明し、その治療としての光療法を紹介しました。この論文は、当時の医学界で懐疑的な見方をされましたが、今では広く受け入れられ、2600以上もの医学文献に引用されています。  米精神医学会の発行する「精神障害の診断と統計マニュアル」第5版(DSM-5)や米国立精神衛生研究所(NIMH)は、季節性感情障害を、「毎年同じ時期になると繰り返し発症するうつ病の一種」と定義しています。  通常、晩秋から初冬に症状が始まり、春から夏にかけて症状はなくなります。夏にうつ病が発症する可能性もありますが、冬に比べて稀です。診断には、(1)のうつ病の基準を満たし、同時に少なくとも2年間、特定の季節に(2)あるいは(3)の症状を認める必要があります。 (1)うつ病の症状(以下はDSM-5基準の概要、少なくとも5つの症状が、同じ2週間の間見られる): 1) 気分が落ち込こむ 2) 絶望的または価値がないと感じる 3) エネルギーがなくなる 4) かつて楽しんだ活動に興味を失う 5) 睡眠に問題がある 6) 食欲や体重の変化を体験する 7) 不活発または動揺する 8) 集中できない 9) よく死や自殺を考える (2)冬の季節性感情障害の症状: 1) エネルギーがない 2) 過眠 3) 過食 4) 体重増加 5) 炭水化物が食べたくなる 6) 社会的引きこもり(「冬眠」のように感じる)  なお、季節性感情障害の評価には、1984年にローゼンタール医師らによって開発された「季節パターン評価アンケート(SPAQ)」が、今日まで広く使用されています。  ただし、カナダのアサバスカ大学のシェリ・メルローズ博士が指摘するように、SPAQの採点は容易ではなく、臨床医と研究者によっても使用法はさまざまです。また、SPAQは、特異性が低いことが批判されており、季節性感情障害でない人が、あたかもそうであるかのよう誤解を招く可能性があります。自己判断ではなく、専門家に相談すべきです。 (3)夏の季節性感情障害の症状: 1) 減量を伴う食欲不振 2) 不眠 3) 動揺 4) 落ち着きがない 5) 不安 6) 暴力行為 季節性感情障害のリスク因子 1) 女性。男性よりも女性で4倍診断される。 2) 赤道から遠く離れた北または南の地域に住んでいる。たとえば、フロリダに住んでいる人は1%、ニューイングランドまたはアラスカに住んでいる人の9%が季節性感情障害に苦しむ。 3) 他のタイプのうつ病の家族歴がある。 4) うつ病または双極性障害がある。 5) 若い。

治療の鍵は「メラトニン」

 1972年、脳の視床下部の視交叉上核という部分に、哺乳類の体内時計(「主時計」)があることが見つかりました。視交叉上核にある神経細胞は、眼から入った光の情報を受け取り、松果体という所へ信号を送ります。松果体からは、「メラトニン」という睡眠を促すホルモンが、朝日を浴びてから約14~16時間後に分泌されます。  メラトニンは脈拍や体温、血圧などを低下させ、体に睡眠の準備ができたことを認識させて自然な眠りに導きます。ですので、朝7時に起きると夜の9~11頃に眠くなってくるのです。視交叉上核が破壊されると、規則正しい睡眠リズムが完全になくなります。  ローゼンタール医師らのチームは、2001年の「JAMA精神医学」に興味深い報告をしました。チームは、季節性感情障害の患者55人と健康なボランティア55人を対象に、一定の薄明かりにおけるメラトニン分泌の持続時間を、冬と夏に測定しました。  すると、患者とボランティアでは、季節の変化に対して、メラトニン分泌が異なる反応を示しました。患者は、夜間のメラトニン分泌の時間が夏よりも冬の方が長く(9時間対8.4時間)、一方、健康なボランティアは変化がありませんでした(9時間対8.9時間)。つまり、季節性感情障害の患者は、季節性行動をする他の哺乳類と同様に、夏よりも冬の方が夜間のメラトニン分泌の期間が長くなりました。  数十万年前の先祖の人たちは、生存のために、冬の間不活発になりエネルギーを節約し、睡眠と食事を増やしたのかもしれません。ただし、現代社会に生きる季節性感情障害の人は、気分が良くなる春と夏をまつ必要はありません。人工光を使い、メラトニンの変動を抑えることができます。
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