「〇〇を食べれば、がんが治る」は誤り! 最新のがん治療の知られていない現実

治療の選択肢が増えることで、生き延びていける可能性は以前よりも高まっている

村上和巳氏

村上和巳氏

――なるほど、そういうことですか。その意味でがんについての正しい情報を知るということの意味は大きいわけですね。 村上:特に近年はがん治療そのものが進歩しています。もちろん個々の新薬や新たな治療法のどれか一つに着目するならば、それぞれは限界があります。というのもがん細胞は現在分かっている事実のみでもヒトの正常な細胞を上回る巧妙な仕組みを数多く持っていて、これを今の技術で完全に消滅させるのはかなり困難です。  ただ、治療の選択肢が増えていくことでこれらを併用したり、効かくなくなっても切り替えたりしながら生き延びていける可能性は以前よりも高まっています。野球の3割打者は基本的には2割打者の切磋琢磨で生まれてくるものですが、まさに今のがん治療はその2割打者が増えている状況ともいえます。  それと私は、ことと次第によっては必ずしもがんが治らなくとも良いと思っています。例えば、糖尿病、高血圧、はたまたHIVは、現時点で決して治ることはありません。ただ、薬を正確に服用し、生活で一定の注意を払えば、治らなくとも以前とほぼ同じ生活を続けていくことができます。これと似た状況は既に一部のがんでは起きていることです。  いずれにせよ日進月歩の進化を遂げているいまのがん治療では、正確な情報を知り、怪しげな治療法に惑わされないことが何より重要なのです。 ――そんなに治療は進歩しているのですね。 村上:例えば20年前くらいだと、あるタイプの乳がんでは、他臓器に転移が起きてしまうと治療をしても診断から1年程度しか生きられませんでした。しかし、このタイプの乳がんは今では診断から5年以上生存している人が半数にのぼります。  このように話すと、「お前は製薬企業の回し者か」的な陰謀論をぶつけられることもありますが、製薬企業とかかわって儲けられるのなら、文筆業のような儲からない仕事はとっくに辞めていますよ(笑)。 【村上和巳(むらかみ・かずみ)】1969 年宮城県生まれ。中央大学理工学部卒業後、薬業時報社(現・じほう)に入社し、学術、医薬産業担当記者に。2001 年からフリージャーナリストとして医療、災害・防災、国際紛争の3 領域を柱とし、週刊エコノミスト、講談社web 現代ビジネス、毎日新聞「医療プレミア」、Forbes JAPAN、旬刊医薬経済、QLife、m3.com など一般誌・専門誌の双方で執筆活動を行う。2007~2008 年、オーマイニュース日本版デスク。一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会運営委員(ボランティア)。著書に『化学兵器の全貌』(三修社)、『ポツダム看護婦(電子書籍)』(アドレナライズ)など、共著は『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)、『震災以降』(三一書房)など。最新刊に『二人に一人がガンになる 知っておきたい正しい知識と最新治療』(マイナビ新書) <取材・文/HBO編集部>
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