DDモールの入り口。裏事情を先に聞いたため、中の撮影はしていない。普通に歩いて周る分にはまったく危なくない
とある週末に「
DDモール」に行ってみた。さすがにアンティークや骨董品という狭いジャンルに特化しているためか、ウィークエンドマーケットの本会場ほど人がいないし、店舗スペースもすべてが埋まっていない。また、モール内は家賃が高いためか、西洋家具や雑貨、タイの宗教美術品といった高価なもの、あるいは巨大なものを扱う店ばかりだった。
もっと安価で小さなものはモールの外にあった。敷物の上で売るような、日本のフリーマーケットにも似たガラクタ市場の様相を呈していて、それはそれでおもしろさがある。並んでいる商品はプラクルアンと呼ばれる石や粘土でできたタイ仏教のお守り、それからブリキのおもちゃや雑貨類などだ。中にはアンティークではなく、ただのガラクタもあるのだが。
チャオプラヤの川底で採られたプラクルアン。これらはDDモールも市場に並ぶという
筆者が注目したのはプリントではあったが、映画のポスターだ。昔の、といっても2000年以前は日本でも映画館の前には映画看板があった。そういった昔の映画の油絵的な看板のポスターが売られていたのだ。タイ映画だけでなくハリウッド映画もあったし、日本のならアニメの「アキラ」もあった。これらが、タイで上映するための看板だったため、タイ語になっているのだ。日本では手に入らないものなのではないだろうか。
このポスターは品物自体は印刷機でプリントされたもので量産品だろうが、先のプラクルアンは「一応」本物だ。「一応」というのは、タイ人はほとんどが敬虔な仏教徒のため、プラクルアンを偽造することはまずないので寺院で作られていることは間違いないのだが、アンティークかどうかは目利きができないと難しいからだ。しかし、こんなガラクタ市場に歴史的価値のあるプラクルアンはそうないだろう。
というのは、タイではプラクルアンはその価値がタイ全土で認められている。コレクターも多く、プラクルアンの見分け方を延々と紹介する雑誌も複数あるほどだ。歴史的価値があるものは日本円で億単位になることもあり、こんな市場にそう簡単に流れてくることはない。
この「DDモール」外のガラクタ市場を見て歩いていると、店主がプラクルアンの説明をしてくれる。だいたいが「アユタヤ王朝のもので、アユタヤの川底からみつけた」などと話す。アユタヤはバンコクから北に車で1時間程度の古都で、アユタヤ王朝はその地に1351~1767年の間、栄えていた。店主が言うことが本当であれば江戸時代のころ、あるいはそれ以前のものということになるが、それが数百円で買えるだろうか。「歴史」はあるが「歴史的価値」はないのかもしれない。ここにはそういったものがごろごろしているのである。
”問題”は「歴史的価値」があるものだ。世界中のアンティークコレクターはその美しさに魅了されるだけでなく、投資的な価値を見出している人もいるだろう。日本人でタイ好きな人の中には、そういった歴史的価値のあるアンティークや骨董品を手にしたいという人もいるかもしれない。
そういった人で、特にタイの歴史と美術に精通して、なおかつ骨董品などの目利きができる人なら、モール内のショップに行くといい。大半が大型の仏像だ。タイの場合、歴史的な美術品は多くが宗教美術に関係するためだ。中には日本刀の専門店まであった。店主は和服を着て、日本語の鑑定書をつけた刀を売っている。タイは刃渡りが長いものでも無許可で所有できるそうで、日本で買って、簡単に輸入できるのだそうだ。
それでは何が”問題”なのか。「歴史的価値のあるアンティークに”問題”がある」と言ったのは、タイの法令に関係する。タイでは文化遺産を保護するため、歴史的価値のある骨董品や仏像などは国外へ持ち出しができない。美術局などの許可があれば可能だが、様々な書類を用意しなければならず、面倒だ。もちろんそれはどの国も同じだが。
この「DDモール」にもそういった歴史的な価値のある仏像などが売買されているという。ある店舗で話を聞くと、飾ってある仏像がアユタヤ王朝時代、それ以前のスコータイの時代(1238ごろ~1438年)のものなどもたくさんあった。どれも何十万円何百万円という品だが、これらが素人には歴史的価値があるものなのかわかりにくい。
ある店主にこっそりと訊くと、「中には国が認める価値がある骨董もあるだろうね。問題はそれが盗品であるかもしれないことだ」という。
先のように許可証があれば国外にも持ち出せるし、ある程度の範囲内で売買は可能だろう。しかし、盗掘あるいは盗品の場合、所有しているだけで身の危険にさらされることになる。