自治体直営の山村留学センター所長が入寮児童と保護者にレリハラ/不適切宗教勧誘か(後編)

天理教が推奨する里親制度との関連は。里子への教化問題も浮上

 この不適切な勧誘は天理教における組織的問題ではなく所長個人の問題なのか。そうとばかりは言えない背景も垣間見える。  天理教には「天理教里親連盟」という教団内組織があり、信者へ里親になることを奨励しているからだ。この天理教の取り組みは一見美談のように思える。しかしそこにも様々な懸念が指摘されている。里親制度で預かった子どもの「信教の自由(信仰しない自由)」が侵害されている形跡があるというのがその理由だ。  教団が作成した里親に関する動画『天理教の福祉「里親連盟の福祉活動」tenrikyo』には、里親となった複数の信者が預かった里子に信仰生活を行わせている場面が映っている。 ◆『天理教の福祉「里親連盟の福祉活動」tenrikyo』より  映像を観た宗教2世問題に詳しい識者は苦言を呈す。 「天理教の里親活動の様子を紹介した動画からは里子たちを教化している様子が伺えます。もし仮に里親という立場を利用して子どもたちを天理教の信者にしているとすると、その目的はサラブレッド信者の養成なのではないのか」  2世信者の離反と後継者不足は天理教に限ったことではないが、その一方で里子を教化し信者に育て上げているとしたら預けられた里子たちの「信仰しない自由」が護られていないのは明白である。  天理教による里子推奨については2016年6月、天理教社会学研究所というサイトに掲載された記事『天理教の里親政策がとても重要な懸念を孕んでいるわけ』がいち早く問題提起している。  天理教が勧める信者への里親登録。全国の25都道府県の同教団教区に里親会があり、今回レリハラが起こった山口県にもやはり教団の里親会がある。  里子が自立または保護者のもとに戻るまで養育する「養育里親」の場合、ひと月に里親手当として86,000円、一般生活費50,800円が国から支給される。里親には里子にかかる医療費や教育費の負担もなく、独自に助成をしている自治体も多い。山口県にも里親手当の助成制度がある。   本郷山村留学センターの所長は自宅に女子中学生を下宿させることを「里親」と表現している。天理教が里親登録を推奨していることと所長が行ってきた里親との関連はあるのか。そして、このような”交換条件”による不適切な宗教勧誘が行われたこと、事実関係と所長への対処、そして天理教の家庭における里子に対する教化について問題はないのか、12月21日に天理教本部へ見解を尋ねた。  天理教本部の渉外広報部によると年末年始で教団行事が多いため回答は年が明けた1月になるという。こちらも回答があり次第続報する。

所長/教会長からの回答

 これまで里親として預かってきた5人の女子中学生に「天理教の話はしていない」と主張する所長。しかし天理教の教会長の家で生活する里子の中学生に天理教の話をしないということがあり得るだろうか。もし仮に意に沿わない天理教の信仰生活を強いていたとすると、彼女たちが卒業後に所長へ連絡を取らなかったとしても無理はないように思える。  里親登録の有無を含めこれらの疑念について追加の質問書を所長に送ったところ、回答があった。  所長は、これまで里子として受け入れてきた女子中学生5人への信仰生活の強要や宗教勧誘を改めて否定した。 「宗教は何を信じようと自由です。また、天理教には入信させるというような制度はありません。したがって天理教を無理に信仰させるようなことは一切ありません」「自宅と教会施設は別でかなり離れています」 「朝は朝食を済ませて学校へ行き、夜は夕食まで山村留学センターで過ごし帰宅するという生活をしており、朝夕の参拝はしておりません」  天理教が勧める里親登録と本郷での里親としての手当についてはこう説明がなされている。 「山村留学センターの入居条件とおり」 「国やその他からは受け取っていません。山村留学センター経由で受け取っているため内容も明確です」  岩国市教育政策課に確認した。里親宅に泊まる形で山村留学を続ける女子中学生の里親には、保護者が月ごとに市へ支払う委託費51,400円がそのまま支給される。その中から里子の中学生がセンターで摂る食事(平日は夕食のみ、休日は3食とも)の代金を里親がセンターに支払う仕組みだという。  所長が里親として女子中学生を自宅に下宿させる際の手当を「山村留学センター経由で受け取っている」のであれば、尚更、天理高校への進学や天理教への入信を里親の条件として提示したことには改めて問題があると言わざるを得ない。
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娘を思う母親の気持ちにつけ込んだレリハラ
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