ほかには、お互いを壁打ち相手として自分を知るやり方も取り入れています。私たちはこれを「夫婦インタビュー」と呼んでいます。
私はライターという仕事柄、たくさんの人に取材をしてきました。インタビューでは相手の発言に対して、「それはどういう意味ですか?」「なぜそう思われるのですか?」というふうに、深掘りをします。同じことを夫婦でしようという試みです。
「よし、やるぞ!」と身構えるのではなくて、普段の成果で「価値観が違うな」と感じたときに軽く聞いてみる感じです。
たとえば、僕は「近い」と思って片道30分の場所にあるカフェに妻を誘ったけど、妻は「遠い」と感じて別のお店にしたいと言われた場合。
「僕は片道30分は近いと思っているんだ。最寄駅までバスで20分かかる場所に住んでいたから、通学も通勤も1時間は当たり前だったからね。あなたにとっての『近い』は何分くらいか教えて欲しいな」
と聞くだけです。
妻の場合は、目的地が「目の前」だと近いと判断しますが、徒歩5分は「ちょっと歩くなぁ」と感じることがわかりました。妻は市街地で育ち、自宅周辺に買い物や遊ぶための場所がたくさんあった。だから歩く必要がなかったのです。
ちょっとしたことですが、この質問のおかげでお互いの距離感覚がわかりました。また所要時間を伝えるときには「歩いて10分」「バスで15分」のように数字で言うようにしました。こうして距離をめぐる思い違いを防げます。
夫婦インタビューで大切なのは、相手を責めないこと、理解できなくてもいいと思うことです。「なんでそうなの?」「なんでこうしてくれなかったの?」と聞いてしまうと、相手のアクションを否定したように聞こえてしまいます。相手がどう思っているのかがわかれば、目的は達成です。
シンプルですが、夫婦インタビューは役に立ちます。実はこの原稿を書いているとき、家事と育児の分担をめぐって妻と意見が割れました。時間をとってお互いの考えを冷静に聞き合って、ベストな対応ができました。
長く一緒にいると「わかってくれて当たり前」と思い、夫婦で考えを共有しなくなることがあります。夫婦は「最も近くにいる他人」です。「違っていて当たり前」を前提に、パートナーの話を聞くのは大切だと私は思います。
<文/薗部雄一>