―― 山口さんは反差別カウンターのような現場の活動を行うと同時に、自民党を含む国会議員への働きかけも行っています。
山口:現場の活動はとても重要ですが、限界もあります。2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されましたが、これは
自民党の西田昌司議員や
立憲民主党の有田芳生議員の活動によるところが大きかったと思います。在特会がこれまでのように街頭で活動できなくなったのも、ヘイトスピーチ解消法のおかげです。
また、私は日韓、日朝問題に関して自民党議員と意見交換したことがありますが、日韓、日朝関係を改善する上でも国会議員にしかできないことがあります。実際に政治家への働きかけによって事態が改善したと実感できたこともあるので、今後も政治家との対話を積極的に行っていきたいと思っています。
―― ヘイトスピーチ解消法はヘイトスピーチを取り締まる上で重要な法律ですが、その一方で表現の自由や言論の自由の弾圧につながる恐れもあります。
山口:ヘイトスピーチは「スピーチ」という名前がついているので勘違いされやすいのですが、
実際はヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)の一形態であり、明確な犯罪行為です。たとえば、他人に対して「ぶち殺すぞ」と言えば、表現の自由ではなく、脅迫になります。それと一緒の考え方です。
もちろんヘイトスピーチ解消法が拡大解釈され、言論の自由が弾圧される恐れがあることは否定しません。実際、国会でも議論になりましたが「米軍は日本から出ていけ」と抗議することもヘイトスピーチと見なされてしまう可能性があります。
私自身、理想としてはヘイトスピーチ解消法はないほうがいいと思っています。しかし、現在の日本は、法律がなければヘイトスピーチを阻止できないような社会になってしまっています。これは非常に恥ずかしいことですし、
日本社会の道徳心によってヘイトスピーチを食い止められなかったことには悔しさも感じています。
いま川崎市で議論されているヘイトスピーチ禁止条例では、実効性を確保するために刑事罰が盛り込まれることが検討されています。今後はこうした条例を全国に広めていくと同時に、もしこれが悪い方向に拡大解釈されたときにはしっかりと是正していくことが重要になると思います。
―― 今後はどのような活動に取り組んでいく予定ですか。
山口:最近勉強しているのは朝鮮人の遺骨の問題です。終戦直後に日本海軍の「浮島丸」が米軍の機雷によって沈没し、朝鮮人の乗組員を含む多くの人たちが亡くなるという事件がありました。このときの犠牲者の遺骨は目黒区にある祐天寺に安置されています。
日本は韓国とは国交があるため、韓国には一部遺骨を返すことができましたが、北朝鮮には全く返還できていません。こうした問題に取り組んでいきたいと思っています。
(12月5日、聞き手・構成 中村友哉)