スピリチュアル・シンポに続きオウムに殺された坂本弁護士を中傷する講演会まで。どうした立教大学

脱会者の話すら聞かずに言及

 質疑に入った。私はこう質問した。 ──やや日刊カルト新聞の藤倉です。歴史認識がおかしい。毎日新聞や坂本弁護士がオウムを暴走させたかのような流れが説明されているが、その前にオウムの中では殺人や形式上「事故死」と呼ばれている事件が起こっている。サンデー毎日と坂本弁護士の件以前からオウムは人を殺していたのに、つじつまが合わない。 大田氏「そんなことはないと思う。その経過は決してぼくの方で勘違いしているわけではなくて、やっぱりオウムは破壊的カルトと呼ばざるを得ない集団で、サンデー毎日や坂本弁護士の交渉が始まる前から、内部では殺害が行なわれ暴力が吹き荒れていました。それは前提としています。そのような暴力も辞さない団体に対する、社会の側からの対応の方法として、そういう団体にブレーキを掛けられない対応になっていたのではないかというのが、ぼくが言いたいことなんですが」 ──ご意見は構わないんですが、順序が逆である以上、そのご意見に実証性がない。問題があるとおっしゃっているのはサンデー毎日によるメディアバッシングと坂本弁護士の対応だということですが、それより前にオウムは人を殺しているので、オウムの問題を止められなかったとか暴走を加速させたという言い方ができない。サンデー毎日や坂本弁護士の何がどのような結果を生み出したのかという事実がない。 大田氏「問題は、どういうふうな対処法がハードクラッシュに至らず緩やかにブレーキをかけるような対処が取れたのかってことについてぼくは考えていて、すでに暴走しているものについて社会の側からのアプローチとしてバッシングから始まるっていうのは……」 ──坂本弁護士、バッシングしてましたか? 大田氏「それはあの、サンデー毎日です」 司会者「あの時間がありますので……」  続いてやや日刊カルト新聞の鈴木エイト氏が質問した。 ──オウムのことを調べるのにひかりの輪とか元オウムの人の話を聞いているとのことですが、大田さんはひかりの輪を調べるのに元ひかりの輪とか一般信徒の話とかは、どれだけ聞かれました? あとマインド・コントロールに効果がないとおっしゃっていますが、他人が書いているものの受け売りとか推測ではなくて、ご自身で調査とか実験とかで調べたことはありますか。 大田氏「いまのは、ひかりの輪とどういう関係があるか……?」 ──いえ。オウムのことを調べるのにひかりの輪とか元オウムの人に話を聞くべきということですよね。 大田氏「ああ、はあはあ」 ──であるならば、(大田氏は)いまひかりの輪を擁護するような意見書も出されてますが、元ひかりの輪の人とか一般信徒の話を聞かれたことあります? 強烈な上祐との運命共同体みたいな人の話しか聞いてないんじゃないの?ということです。 大田氏「特に、ひかりの輪を脱会された方の話を聞いたかっていうことですか?」 ──はい。 大田氏「あ、それはいまのところないですね。よくご存知かと思うんですが、ぼくも聞く機会があれば聞いてみたいと思うんですが、ネット上では、どうもそういう方からぼくに対する誹謗中傷が先に行われていて、ぼくもどう対処していいのかわからないところがありまして。もし冷静な対話が成り立つのであれば、そういう方からの意見もぜひぼくは聞いてみたいと思ってるんですけども、ちょっといきなり『お前はマインド・コントロールされている』とかですね、かなりひどい攻撃がされたっていうこともあって、そういうことができていないということですね」  大田氏が、これまでひかりの輪側の人間の証言だけを元に上祐氏やひかりの輪を擁護してきたとことが判明した。ネット上で元信者から批判されると、それ以外の元信者からも話を聞かないらしい。

来場者に取り囲まれてダメ出し

 この講演会には「やや日刊カルト新聞」の記者陣のほかにも、カルト問題に関心を持ち日頃から活動している人々やジャーナリストも来場していた。講演を終え教室を後にする大田氏を取り囲む形で、これらの人々が大田氏に対して「ダメ出し」をした。
講演後に取り囲まれる大田俊寛氏

講演後に取り囲まれる大田俊寛氏。取り囲んでいる側も笑顔を交えてはいたが辛辣な批判が相次いだ。

ジャーナリストの藤田庄市氏「事実に対して非常に傲慢だし、史料批判もなってないというのが、今日の私の感想です」 大田氏「会うたびに1つも褒めてくれないじゃないですか(笑)」 藤田氏「会うたびにったって、まだ2回目だよ」 「はっはっは」 大田氏「ぼくはなんか村八分にされていて……」 「ぼくら何一つ排除してないじゃないですか。村八分じゃないですよ」 藤田氏「大田さん、いまのその感覚が、今日の話を象徴してるよな」 「そもそも大田さん来ないじゃないですか、ぼくらが発表したり調査したりイベントやったりしても、大田さん来ないですよね。ぼくら全然排除してないですよ。カルト問題の現場に来ないのにカルト問題を語っちゃうのって、そういうところなんじゃないですかね」 大田氏「わかりました」 「別に、やや日刊カルト新聞のトークイベントに来いと誘っているわけではないんですけど。1月4日に阿佐ヶ谷ロフトAでカルト新年会(トークイベント)やります!」  このやりとりからもわかるように、大田氏はカルト問題に取り組む人々や継続的な調査や取材を行っている人々と全く交流がない。「やや日刊カルト新聞」のトークイベントに限らず、カルト問題に関する一般公開のシンポジウムなどに来て学ぶこともしていない。私自身、彼と取材現場で出くわしたことは一度たりともなく、この日が初対面だった。  ただひかりの輪の関係者に話を聞き、断片的な情報をつまみ食いするだけ。カルト問題をめぐる歴史を捏造し、カルト問題に取り組んできた人々をアカデミズムの体をとって中傷している。坂本弁護士については特に力を入れて、繰り返し名指しし、事実を捻じ曲げて中傷している。今回の講演会は、その中でも最悪のケースとなった。  講演会の主催者である立教大学「人文研究センター」のセンター長・長谷川修一教授によると、「人文学と知」をテーマにしたこの講演会シリーズでカルトや宗教をテーマにしたのは今回が初めただという。よくわかっていない主催者が、よくわかっていない研究者を招いてとんでもない講演会を開催してしまったという構図なのだろうか。  前日にやはり立教大学で行なわれたスピリチュアル・シンポジウムとは全くテーマも事情も異なるが、2日続けて「大学という場所でこんなことが繰り広げられていていいのだろうか」と感じずにおれなかった。 <取材・文・撮影/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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