崩壊寸前の年金制度。将来不安をなくすために考え直すべき3つの課題とは?

富裕高齢者にも相応の負担を

 3番目に上げた点も改革が急務だ。現在の年金制度は世代間扶助の考え方を原則としている。現役時代がシニア世代を支えるというものだ。しかし、そのシステムもすでに維持することが不可能になっている。  政府は国民年金の危機に関して、従来は4人で一人を支えるおみこし型だったが、もはや一人が一人を支える肩車状態になりつつあると説明するのだが、先にも書いたように、その肩車になることもできない人たちが多くいるのが実態だ。  支えることができない人が多すぎて、今のシステム維持が難しいからこそ、社会保険制度なのに、多額の税金を投入せざるおえないのだ。これは、年金制度が、もはや保険から福祉制度の要素を強めたことを意味している。年金制度が老後の生活を支えるためにあるものならば、高額の年金が支給されているシニア世代や、所得はなくても多額の資産を蓄えた経済力のあるシニア世代にも制度を支えるためにそれ相応の負担を求めることが必要ではないだろうか?   特にマイナンバーは所得だけでなく、資産を含めた個々の国民の経済能力を捉えることができるはずだ。引退して所得はないとしても、資産が10億円もあるようなシニアに年金を支給する必要があるだろうか?そのような、豊かな老人からは、同世代を支えるために負担を求めてもいいのではないかと思うのだ。  経済的に逼迫し、経済的な理由で結婚や子作りや十分な教育も諦める若者世代にこれ以上の負担を求めるのは日本という国家の将来に決してプラスではないはずだからだ。  お話ししてきた改革をするとなると、多くの国民論議が沸き起こり、既得権益を失う国民も、新たな負担を求められる人もいるわけで、多くの批判や反対も出てくるだろう。しかし、改革が必要なことはほぼ全ての国民が認めている。その改革を成し遂げられるのは権力基盤の強い政権でしかなしえない。もう一度申し上げたい。憲政史上最長、議会で圧倒的な政治基盤を持つ現政権こそ、過去数十年、国民が望んでいる社会保障改革、特に年金制度改革に手をつけてもらいたい。いや、その義務があるのではないだろうか? ◆佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡 <文/佐藤治彦>
さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)『使い捨て店長』(洋泉社新書)
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