多様な生き方への対応ができてもいないことによる歪みが出ている。今の年金制度の骨格は今から60年近く前の1960年ごろに出来上がった。テレビでもおなじみのサザエさんの家族のような世帯が多かった時代にできたのだ。3世代同居、女性は家庭で専業主婦として家事だけをする。そのため収入はない。夫は外に出て働いて収入を得て生活を支える。今の制度はそういう時代の社会や家族の時代にできたもの。それが、基本的にそのまま踏襲されている。しかし、今や核家族化は進み、一人世帯も多いのが実情だ。家族のあり方、個々の人生の選択は多様性に富んでいる。プロトタイプの人生がないのだ。しかし、今の年金制度は対応できていない。
特に問題なのが主婦の扱いだ。それが、制度も社会も歪めているように思えてならない。
国民年金は自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者と、サラリーマンなどの給与所得者や公務員の第2号被保険者、そして、第2号被保険者に扶養されている配偶者が入る第3号被保険者の3つに分類される。
だから、所得のないサラリーマンの妻は第3号被保険者である。毎月の保険料を自ら払うことはない。そして、実は夫が払うこともない。制度全体で支えるということになっている。その数は847万人もいる。しかし、専業主婦ばかりではない。実際はこの847万人の多くが外で働いて収入がある。第3号被保険者であれば、自ら高額の保険料を払う必要がないから、第3号被保険者の要件を満たす範囲で働いていると言うだけだ。私は制度を改革してこの847万人の人にも保険料を払ってもらうべきだと考えている。
106万、130万の壁ということを聞いたことがあると思う。第3号被保険者が要件を満たす職場で仕事をして106万円の年収を越えると社会保険に自ら加入する義務がでて、給料から厚生年金保険料と、健康保険を負担する必要が出る。また、要件を満たさない職場でも収入が130万円を越えると自ら国民年金保険料、国民健康保険料を毎月負担しなくてはならなくなるものだ。逆にこの範囲内であれば、年金保険料の負担をしなくてすむ。つまり、制度が負担してくれることになる。
これは、”専業主婦は家事をして夫を支えるもの。だから、所得がなくて当たり前。また、ある年齢になれば誰もが結婚して家庭を持つのが当たり前”、という誰もがほぼ同じような人生を歩む時代には、制度全体が支払うといっても、それぞれの第2号被保険者は自らの分だけでなく、制度全体を支えるための支払いもあるわけで、それによって自らの配偶者の老後の年金がおおよそ誰もが保証されるという、ほぼ不公平感のない制度だった。そして、専業主婦の無年金という状態を避けるために導入されたもので、当時は合理性のある制度でもあった。しかし、今や、誰もが同じような人生を歩む状態ではないし、多くの主婦が外で働いて収入を得る時代である。20歳を超えて少しでも収入があるのなら、社会保険料は原則払うことにした方がいい。そうすれば、社会保険料を自ら払わなくても済むようにと、11月くらいから勤務時間を減らして収入が少なくなるようにする歪な調整をする必要はなくなるはずだ。現在847万人いる、第3号被保険者が年金の負担をするとなれば、年金財政は大きく変わる。逆に第2号被保険者の負担は減らせるはずだ。ちなみに、これをそのまま導入すると、夫の年金だけが多く、妻のもらう年金が少なくなってしまう可能性がある。そこで、夫婦は夫と妻の将来の給付金を2分の1づつ受け取るようにするなどの調整をすればいい。こう改革すれば、お互いの将来の年金額が増えるように給与収入がもっと欲しい女性はさらに積極的にいい勤務条件の職場を求め、どんどん社会参加するだろう。これこそ、女性活用の社会の布石となるはずでもある。
もちろん専業主婦を否定しているのではない。夫の激務を支えているのだ。それなら、第2号被保険者の妻の保険料は制度が払うのではなく夫が支払うのが当たり前ではないだろうか?
なぜなら同じ専業主婦で収入が全くない妻でも年金保険料を払わなくてはならない人がいるからだ。それは、自営業者の妻である。第一号被保険者の妻は第1号被保険者である。だから、国民年金は毎月払うことが求められる。収入のない専業主婦なら、妻を無年金にしたくないのであれば、自営業者の夫がその分も払っているのが実情だ。つまり、
サラリーマン=給与所得者の妻は支払う必要がなく、自営業者の妻は支払う必要がある。さらに、給与所得者でも非正規労働者などに見られるように勤め先の社会保険制度で厚生年金制度が整備され加入できていないと、夫婦とも第1号被保険者で自ら支払いを求めらている。これもおかしな制度である。少なくとも不公平感が拭えない。