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意見3:
教育をよくするためには、入試を変えなければならないのではないか。(だから、記述式を入れるべき)
【回答】
入試によって教育を変えていくという考え方は、本来は本末転倒なのですが、これには文科省側の苦しさも理解できる部分はあります。
数学に関する部分で一つ実例を紹介しましょう。高校数学の現行課程による入試は2015年春から始まりました。現行課程では、数学Aは、「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」の3項目からなり、この中の2項目を選び学習すると数学Aは履修したことになります。
ところが、まず、東京大学が入試の出題範囲にこの3項目をすべて入れました。文科省は2項目でよいというのに対し、東京大学は3項目を要求し、その結果多くの大学も3項目を出題範囲に入れ、高校現場でも3項目を学習せざるを得なくなったのです。つまり、多くの高校現場が、東京大学の方に従ったのです。これでは文科省が面白くありません。似たようなことはそれ以前にもありましたが、つねに東京大学の方に軍配が上がるので、文科省あるいは制度を設計する側からすると「入試が変わってくれないと教育は変わらない」と思ってしまうのは理解できる部分はあります。
しかし、そのように思うところがあったとしても、
教育課程そのものをよくしていくことを考えずに、入試によって教育を変えていくという考え方は、制度設計側が言うことではありません。あくまでも学習指導要領を変え、それに沿った形で試験も変わるというのが正しい形ではないでしょうか。
また、大学に進学しない高校生、入試を受けない高校生も多くいることも考えるべきです。
「センター入試」の問題点は記述式導入の是非とは無関係
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意見4:
今のセンター入試が子供達を伸ばす良問ですか?
【回答】
センター試験の問題がすべて良問というわけではなく、まだまだ改良の余地があります。しかし、入試問題全体からすれば、よくできているほうで、数学の試験の場合は正しく考えなければ正答に達することができないようになっています。ごく一部(必要条件か十分条件かを選ぶ問題など)に、一か八かで正解してしまう問題もあります。
また、ある問題が良問かどうかを判断するときは、その試験の役割を考えることも大切です。国公立の2次試験があることも踏まえて、良問かどうかを判断すべきなのです。「センター試験はテクニックがあれば点が取れる」という発言も多々見かけますが、そのようなものはどのような試験にも多少はあります。センター試験の後継の「共通テスト」の試行調査の問題が、あまりにも雑な問題になっていたことも共通テストへの不安を増幅する要因になっています。
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意見5:
記述式の採点は、「ブレる」と言われるから、ブレない問題にすると、今度は、「記述式の意味がない」と言われる。記述式反対者はどうすればいいと考えているのだろうか。
【回答】
少なくともきちんとした採点ができるまでは記述式は見送るべきと考えています。
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意見6:ブレない採点が本当に必要だろうか。国立大学の2次試験の採点ではブレないのだろうか。
【回答】
国立大学の2次試験の採点が絶対にブレていないかということは保証できませんが、ブレないようにかなりの努力をしているのは事実です。その精度は模擬試験とは比べ物にはなりません。しかし、それ以上に忘れてはならないのは、国立大学の2次試験とは異なり、共通テストには「自己採点」をしなければならないというステップがあります。採点者がブレるような試験を受検者がどのくらいブレるかは説明が不要かと思います。