正常と異常を反転させたい。「解放区」太田信吾監督<映画を通して「社会」を切り取る4>

© 2019「解放区」上映委員会

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 東京から来た映像ディレクターの視点を通して日本最大のドヤ街と言われる大阪・西成区に息づく人々の姿を描いた「解放区」。今年10月からの上映が話題となり、年明けからも地方各地で上映が予定されています。  当初大阪市に助成を受ける形で制作をスタートさせましたが、完成後の内容が相応しくないと修正指示があり、助成金を返還。2014年の第27回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門で上映されるも、一般公開までは5年近くの歳月が掛かりました。  前回に引き続き、「解放区」を公開した太田信吾監督に制作秘話、そして、これからの映画の届け方や作り方などについてお話を聞きました。 ※映画のネタバレになるような内容を含みます。

常に私事として

――今回の「解放区」は劇映画ですがドキュメンタリーの部分もありますね。 太田:日雇いの西成の解体現場にいる方々は、1人は俳優ですがそれ以外は全て現地の解体現場の方々にお願いして出演して頂きました。演技をしてもらうのではなく、僕らが働きに行ってそこを撮っています。須山が釘を踏んでしまったシーンは演技ではありません。痛かったですね…。 ――今回、太田監督はメインで撮影を担当していませんね。 太田:絵コンテ通りに撮ってつまらないものになってしまった処女作での失敗を生かそうと、前作「わたしたちに許された特別な時間の終わり」(2013)は自分で演じて自分で撮るという手法を撮ったのですが、それについてはやり切ったと思ったんですね。なので、またチームプレーに戻ろうという思いがありました。もっとも、一部は自分で撮影を担当しています。 ――演劇ユニット「ハイドロブラスト」名義では今年2月に最新作「幽霊が乗るタクシー」の公演がありましたが、福島や東北を題材に演劇の上演を続けていますね。映画と演劇で表現を分けているのでしょうか。 太田:映画と演劇を分けているのではなく、ドキュメンタリーをライブでできないか、という実験をしているんですね。演劇ではなく、ライブドキュメンタリーをやりたいんです。「幽霊が乗るタクシー」では映像の部分と俳優が実際に演技をする2つのパートに分かれていますが、ドキュメンタリーを拡張していきたいと考えています。 ――そうなんですね。
太田信吾監督

太田信吾監督

 太田:やはり大事なことは自分を安全な場所に置かないということですね。撮影の途中で自死を選んだ前作「わたしたちに許された特別な時間の終わり」の主人公増田さんに対しても「もっとできることがあったのでは」と思っています。  今はどんなテーマであれ私事として捉えて撮りたいという気持ちですね。先日も新作の福島をテーマにした映画の準備で福島第一原子力発電所の敷地内に入って建屋の前まで行きました。   自分の中で「福島」とは何なのかを考え続けたいです。放射線測定器の線量がどんどん上がっていくのを見たのですが、原発への賛成/反対よりも、日常の中で自分が当事者としてどのような形で福島と関わりがあるのか、そこを探っているんですね。現地の人たちの生活に課題があるのだとしたら、それをどのように変えて行けるか、自分に何ができるのかのほうが気になりますね。

弱さを受け止めてくれる場所・西成

――「解放区」では、映像ディレクターの須山と被写体である引きこもりの本山、須山と上司、須山と彼女、須山と西成の人々と様々な人間関係がパラレルに描かれますが、最後一気にそれらがつながりラストに向かいます。予告編の「心のフェンスを解き放て」というセリフがぴったりの素晴らしい構成でした。 太田:西成は社会に生きる人々の弱さを受け止める場所ですよね。あそこに行けば日雇いの仕事があってお金が稼げて何とか生活ができる。一方で、ドラッグやお酒、そして発注者と労働者の間の中間搾取が横行するなど労働に関する問題もあります。
© 2019「解放区」上映委員会

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 日本社会のひずみが目に見える形で残されている街に流れ着く男の話をやろうと思った時、映像ディレクターの須山と引きこもりの本山さんの正常と異常が反転する話をやろうと思いました。  主人公の須山はお金持ちではありませんが会社員で彼女もいます。それが西成に行き、ふとしたことがきっかけで蟻地獄に落ちていく。安全だと思っていたメディアの人間が、ちょっとしたボタンの掛け違いで、無一文になり、覚せい剤に手を出し、ある意味被写体の世界に落ちてしまう。そういう話にしたかったんですね。
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上映した街で「解放区」を
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