――自主映画において助成金の存在は不可欠だと言われていますが、「解放区」は、助成を受けて制作を開始したものの、完成作品に対して大阪市側から修正指示を受け、最終的に助成金を返還しています。そうした事情もあって完成から公開まで5年が経過していますが、公開後の反応はどうでしたか?
太田:様々な感想がありました。「これは修正指示を受けて当然」という人もいましたし、「何が問題なのかわからない」と言った人もいました。
全国に先駆けて10月半ばからテアトル新宿で4週間上映したのですが、この時のお客様の反応が一番、賛否両論の幅が大きかったですね。
ところが、11月の初めからご当地の大阪で上映したところ、「何が問題なの」という声が多かったです。もっとも、現地であるにもかかわらず、大阪のお役所の人の感想は高みの見物をしている東京と同じくらい冷たいものでした。東京と大阪の差はお役所と西成の差ですね。
© 2019「解放区」上映委員会
――太田監督は自主映画も助成金に頼らない映画制作をすべきとコメントしています。資金回収も重要な課題ですが、映画の届け方に工夫をしていることはありますか?
太田:静岡での上映時には、街の中に解放区を立ち上げるというコンセプトでサイファー(ストリートラップ) を路上でやったのですが、街の内外からラッパーや地元の方々が30人くらい来てくれました。その中のどれだけの人たちが映画を観てくれたか分かりませんが、彼らと交流したんですね。「こういう場を作って下さってありがとうございました」とも言われました。
静岡で映画を撮ることがあれば彼らに出て欲しいと思っていますし、もっとストリートから表現を立ち上げていきたい。ストリートは面白いです。僕の映画はおしゃれでなくていい。とにかくエンターテイメントでありたい。それから、映画をやっている人たちが面白いと思ってくれることが大事ですね。これからもストリートでイベントをやりつつ、上映した先で「解放区」を立ち上げたいですね。
――いいですね。
太田: 映画を作って流すだけではダメだと思っています。UPLINK吉祥寺はPARCOの中にあることもあって若い人たちがいましたが、他の地方での上映は、年配の方が多い印象でした。原因は、作品の質なのか劇場にいらしているお客さんの層なのか、どちらかはわかりませんが、もっと映画の可能性を探っていきたいと考えています。見せ方、届け方に工夫をしていきたいですね。
――助成金の運用面についてはどのように感じていますか?
太田: 日本の助成システムはアーティスト側のものになっていないですよね。例えば、当初の支出の計画から変更が出た場合、変更に対して膨大な書類を出さなくてはならず、融通が利きません。資金を年度末までに消化しなければならないということもあります。もっとアーティストが作品を制作し易いようにカスタマイズが必要だと思います。
――全体予算の一部に対する助成金しか認められていないことも使いづらいと聞きます。例えば、助成が全体予算の5割と定められていたら、助成金が500万円下りたとしても1000万円の予算の映画にしなくてはならない。残りの500万円を自力で集めないと500万円の助成が受けられないシステムになっています。
太田:助成金を全体予算の一部とすると、結果的に大手の製作会社の大作が撮りやすくなってしまいますよね。
でも、そこはきちんと説明すればお金は集まってくるという感触があります。やはり個人でお金を持っている人を見つけることが大切です。
つい先日も劇場に行ったら「投資家です」と声をかけてくださった方がいて、後日、高級焼き鳥店に連れて行ってくださり、「1000万円くらいまでなら出資できる」とおっしゃってくださいました。
――映画が好きな方なんですね。
太田:今回の「解放区」もカトリヒデトシさんという演劇が好きな資産家の方に、エグゼクティブ・プロデューサーになってもらいました。
助成金を利用しても良いのですが、出資を募るのはクリエイターにとっては大事な課題です。商業の仕事で社長さんのドキュメンタリーを撮らせてもらうことがありますが、映画が好きな社長さんはたくさんいます。
作品を面白がってくれて、お金を出してくれる人は探せばいるんですね。資金集めや収益向上については今後も工夫して取り組んでいきたいと思っています。
© 2019「解放区」上映委員会
公開情報:1/10(金)より宮城・チネ・ラヴィータ、1/15(水)より広島・横川シネマ、1/31(金)より佐賀・シアターシエマにて上映、以降全国順次公開
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。