イケメン殺人鬼を描いた映画「テッド・バンディ」、その3つの魅力と独特のアプローチ

© 2018 Wicked Nevada,LLC

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 12月20日より公開されている「テッド・バンディ」(原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile)が実に刺激的な映画だった。  同作は“シリアルキラー”の語源となり、「羊たちの沈黙」のレクター博士のモデルにもなった実在の殺人鬼テッド・バンディ(1946-1989)を描いた映画だ。しかしながら、作品としてのアプローチは非常に独特であり、単に殺人鬼のおぞましい犯行を追ったり、その人生の謎を解き明かそうとする内容ではない。  詳しい理由は後述するが、本作はテッド・バンディという殺人鬼について全く知らないという方にこそ観てほしい、現実に根ざした“気づき”も得られる映画だったのだ(そのため予備知識はほとんど必要ない)。  映画の具体的な特徴と魅力を、大きなネタバレに触れない範囲で以下より記していこう。

1:実在の殺人鬼を題材にしているのに「無実なのでは?」と思ってしまう

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 この「テッド・バンディ」の最大の特徴であり、また魅力となっているのは「この人は実は無罪なんじゃないか?」と思ってしまうことだ。観客は事前に“実在の殺人鬼の映画”だと知っているのにも関わらず、である。  その理由は、テッド・バンディの犯行シーンを映していないことと、テッド・バンディ自身がイケメンで話し上手で魅力的に“見えてしまう”からだ。  本作はR15+のレーティングがされているが、(若干の性描写があるのみで)直接的な暴力描写はほとんどない。提示されるのは、ニュースや新聞での報道、裁判での証拠(ただし70年代当時にはDNA鑑定はなく決定的な証拠ではない)、そしてそれらの容疑を否認するテッド・バンディの証言などだ。つまり、観客に“彼が犯人であると決定的にわかるシーン”が示されないのだ。  そのテッド・バンディは、実際にIQ160の頭脳を持ち、美しい容姿、女性たちを魅了するカリスマ性を持ち合わせていた。劇中で彼を演じているザック・エフロンの表情や口調が“軽妙”であることが、その“魅力”を加速させる。おかげで、本当に彼のことが殺人鬼には思えなくなってくる、いや、もはや(恐ろしいことに)彼のことを応援してしまいそうにもなってくるのだ。  その「この人は実は無罪なんじゃないか?」という観客の疑心暗鬼、ある種のエンターテインメント性は、当時のテッド・バンディの裁判に注目していたマスコミ、その報道を聞いていた国民の心情とも一致している。劇中では実際のテレビでの報道映像も使われており、当時の“空気感”を存分に味わえるだろう。これは、新聞の記事やドキュメンタリーでは実現できない、映画でしかなし得ない“体験”だ。

2:殺人鬼の“長年の恋人”の視点で描いていた

 もう1つ、この映画の大きな特徴と言えるのが、テッド・バンディの“長年の恋人”からの視点も多く描かれているということだろう。  信じられないことに、多数の若い女性を強姦し殺害し、死体も凌辱するというおぞましい犯行を繰り返していたはずのテッド・バンディは、同時期にシングルマザーの女性と付き合っており、その幼い娘にもとても気に入られていたのだ。  これほどにまで恐ろしいこともなかなかないだろう。何しろ「イケメンでとても優しかった恋人が最悪の殺人鬼だった」のだから。一歩間違えば、自分も、娘も殺されてしまっていたかもしれないのだから……。
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 さらに、このシングルマザーの女性にも「本当にこの人は殺人鬼なのか(無実なのか)」という疑心暗鬼が重くのしかかることになる。前述したようにテッド・バンディの犯行シーンを映していないのは、真実を知り得ない彼女の心理を反映した結果とも言える。リリー・コリンズの演技は、筆舌に尽くしがたい苦しみの中で、憔悴しきっていく彼女の心理を見事に体現していた。  このシングルマザーの女性が何を想い、何を乗り越え、そしてテッド・バンディと“対峙”していくようになるのか……?その過程はドラマとして面白く、結末には(ネタバレになるので具体的に書けないが)今までの伏線が集約されたような、ある種のカタルシスが用意されていた。ぜひ、彼女の気持ちに寄り添って、その顛末を見届けてほしい。
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3:サイコパスの恐ろしさを描いていた
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