「音楽に政治を持ち込むな」の愚。いつだって戦ってきた音楽。そして、終わりなき音楽の戦い<戦うアルバム40選・21世紀編>

セクシュアリティに対しても柔軟

『Dirty Computer』Janelle Monae(2018)
『Dirty Computer』Janelle Monae(2018)

『Dirty Computer』Janelle Monae(2018)

 優れたシンガーソングライターダンサー、そしてサウンド・クリエイター女優でもあるジャネール・モネエは間違いなく、2010年代を代表するマルチ・スター。そんな彼女は自身の性的指向をパンセクシャル(すべての愛に対応可能)であることをカミング・アウトしていることでも知られている。彼女がそうした性的指向の問題などを軸とした社会問題を強く提起したのが現時点での最新作の本作。  シングル・ヒットした「Make Me Feel」で自身の性的指向を実質的にカミングアウトしているほか、「Pynk」「Don’t Judge Me」でもLGBTを中心とした女性のパワーを高らかに祝福。さらにエンディングでは黒人の人種問題に言及オバマ元大統領の、差別なき理想の社会を謳った名演説をサンプリングした、その名も「Americans」で、アメリカ合衆国が本来あるべき自由の理想を訴えている。 『Joy As An Act Of Resistance』Idles(2018)
『Joy As An Act Of Resistance』Idles(2018)

『Joy As An Act Of Resistance』Idles(2018)

 この企画の最後は、現在の最新のパンクロック・バンドで。それがイギリスは南部ブリストルを拠点とする5人組アイドルズだ。ルックスはおよそイケメンからは程遠い、年齢不詳のオヤジ顔で、濃いブリティッシュ・アクセントのシャガレ声と、一切の洗練を拒むような荒くれた演奏が特徴の彼らだが、その男臭いイメージとは全く対象的に、冒頭の「Colossus」からいきなり、「既存の男らしさ」に挑戦を挑む、同性愛の可能性も含めた新しい男らしさを提唱。  そこを起点として彼らは「俺のブラザーは移民。俺のブラザーはフレディ・マーキュリー」(「Danny Nedelko」)と移民やゲイを排斥する世の中に一石を投じ、さらに国籍や、階級による差別問題といった、イギリス固有の問題をブレグジットが目の前に迫り、LGBTQに不寛容な現在の世の視点からリアリティを持って強く反抗の声をあげている <取材・文/沢田太陽>
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