異質なものについて考え続けていきたい。「種をまく人」竹内洋介監督<連載・映画を通して「社会」を切り取る2>

映画美学校の卒制として「せぐつ」を撮影

――大胆な発想ですね…。デビュー作「せぐつ」はどのような経緯で作ったのですか。 竹内:映画美学校の初等科の卒業制作はその学年の生徒の中で4人選抜された人が、各々15分の作品を16mmフィルムで制作するのですが、その4人のうちの1人に選ばれて撮ったのが初の短編映画です。  暗いと言われますが、初期衝動も手伝って自分が良く出ているんじゃないかと思います。 ――脚本を書く時にはシーンがまず浮かびますか? 竹内:そうですね。やはり常に頭の中でイメージが浮かんできますね、字面だけを見ろという人もいますが、僕はイメージしながら脚本を書きます。ずっと絵を描いてきましたから、見る方が常に先行しますね。  大学では工学部で都市や建築、室内の環境をどのように改善したら良いかを勉強していたこともあって、対象を立体的に捉える癖が付いているのかもしれません。 ――映画を撮る時にもきちんと絵コンテを描いているのでしょうか? 竹内:「せぐつ」の時はきっちり描いてその通りに撮りました。16mmフィルムでの撮影だったのですが、美学校から提供されたフィルムは15分の倍の30分しかなかったので、無駄がないようきっちり絵コンテ通りに撮りましたね。  ところが、仕上がった映像がまさに絵コンテ通りでつまらなかったという気持ちもあって、2作目の「勝子」は、ほとんど何も決めずに現場で考えながら撮りました。ストーリーもなるべくシンプルに、人が出会って別れるだけの話にしました。撮影もカメラマンを信頼して全て任せようと。自分はファインダーは覗かないと決めて撮りました。

映画に散りばめられたゴッホの要素

竹内洋介監督――今回の「種をまく人」はどのようにしましたか? 竹内:脚本段階でカット割りだけを決めて、それ以外は主演の光雄役でもあり撮影監督でもある岸建太朗さんやもう一人のカメラマンの末松祐紀君と話し合って、役者の感情を尊重しながら撮りました。なるべくカメラマンの感覚に委ねて、僕が何か感じた時には合図して方向を指示したりして自由に撮っていましたね。  岸さんが監督、撮影の「未来の記録」という映画に惚れ込んでお願いしたので彼の感覚で自由に撮って欲しいという思いがありました。僕は生の役者の演技をじっと見るようにしていました。 ――1作目の「せぐつ」、2作目の「勝子」も絵を描くシーンがありましたが、今回の「種をまく人」には入っていないですね。 竹内:絵が好きだったのでどうしても入れたくなってしまうんです。狙ったつもりはないのですがいつも竹内ワールドと言われてしまって。今回は絵のシーンは入れずに自分の個性を出さないよう意識してシナリオを書きました。 ――手法には個性を持たせないということですね。 竹内:自分の癖をなるべく消すようには意識しました。それでも出てしまうのが本物の個性というか作家性なのではないかと。  ただ、ゴッホがテーマなので、作中にはゴッホの要素を散りばめています。ゴッホの靴のカットなど彼の描いた絵画のモチーフが随所に使われています。  また、ゴッホの絵画のトーンの変遷は、映画全体を通しての空気感の変遷に投影されています。絵を描き始めた当初はかなり暗いのですが、パリに行って印象派の影響を受けてからは徐々に明るくなり、アルルに行ってからは最も明るく、そして、精神を患ってサン=レミの療養所に入って徐々に暗くなり、亡くなる直前のオーヴェル=シュル=オワーズにいた頃は死を思わせるような色になっていきました。  映画のラストシーンは明るくしてありますが、他のシーンの色付けは同じように変えています。 ――知恵の演技が素晴らしいと評判になっています。知恵役のキャスティングはどのようにしたのでしょうか。 竹内:オーディションを行って決めました。知恵役の竹中涼乃さんは部屋に入ってきた時から雰囲気が違ったんです。  子役の子たちは本当にそれぞれで、自分を一所懸命主張したり、媚びを売ったり。その中でも2、3人おとなしく隅っこにいる子がいてその中の一人が涼乃ちゃんでした。  何日かかけてオーディションをして、最後は3人に絞って、既に決まっていた両親役の足立智充さんと中島亜梨沙さんもいる場で重要なシーンを演じてもらい、バランスも見ながら選びました。スタッフも含めて満場一致で涼乃ちゃんに決まりましたね。  撮影時は、涼乃ちゃんの活きた感情を生かすために事件までのシナリオしか渡さず、その先のシーンは全て撮影現場で口頭で説明し、周りの大人の役者たちが導くように彼女の演技を引き出していきました。順撮りだったのでスタッフには苦労をかけましたが、何とかスケジュールを組んでもらいました。
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