科学的・心理学的という言葉を多用してもっともらしいことを言うインフルエンサーの不都合な真実

怪しい「科学的」文章を見抜く3つのTips

Tips 1: いくつもの専門分野について論じているインフルエンサーの文章は疑う  科学的な専門分野を深く理解し、論じられるようになるには何年もの月日がかかります。一生のうちに専門分野を1つか2つ持てるのが精一杯で、いくつもの専門分野を持っている「ような」人は、1つ1つの「専門」の内容が薄く、全く不正確なことを書いていることがあります。  ある分野の本物の専門家ならば、その科学的内容が正しいか否かを見積もるには膨大な量の論文を読み、相反する見解を比べた上で、その妥当性を見積もります。その上で、自分の意見をサポートするために適切だと考えた論文を引用、紹介し、記事や書籍を書きます。私はこれまで一般書籍を4冊出版(1冊は共著)しています。もちろん、私のこれまでの知識の貯金は数年分ありましたが、1冊書き上げるのに平均半年かかっています。それだけ、科学的内容を精査し、正しく伝えるには時間がかかります。これが学術論文ならば、何年もかかる場合もあります。いくつもの専門分野について論じているインフルエンサーは、必然的に1つ1つの論文を読む時間が限られ、内容の精査も甘くなり、ときにリサーチャーの手を借りて、自ら論文を読んでいない場合もあります。 Tips 2: 参考文献を提示していないインフルエンサーの文章は疑う 「○○大学の研究によると、▽▽である。」と書きつつ、参考文献の記載がない文章は、その文章を書いた本人は、その学術論文を直接読んでいるわけではなく、どこからか聞いてきた、あるいはどこかの一般書や記事に書いてあることを引用している、まさに引用の引用の可能性が疑われます。下手をしたら引用の引用の引用となる場合があり、もとの学術論文の内容とはかなりかけ離れた内容になっていることがあります。まさに伝言ゲームの如しなのです。  また、参考文献の記載があったとしても、その内容を自身の言葉で説明せず、「表情は万国共通と言われているが、日本人には当てはまらない。それはこのリンク先の論文で実証されている。」のようなずさんな記載のされ方も、要注意です。「あなたこの論文、本当に読んだ?」と問いたくなります。 Tips 3 :研究の方法論に言及していないインフルエンサーの文章は疑う  学術論文の要は、その実験がなされた方法といっても過言ではありません。どんな方法で結論が導き出されたのか。方法に問題があれば、結論の妥当性は当然失われます。過去記事でも紹介しましたが、微表情の非有効性について論じた論文があります。方法及び結論は次の通りです。 「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。その結果、全697の表情パターンが観られ、そのうち完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかないことがわった。」  この論文はPorterら(2008)によるものですが、よく微表情否定派の論拠に使われます。この「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。」という方法論の部分が隠されて、あるいは、インフルエンサーに方法論が読まれずに。この感情を喚起させるような「写真」を「動画」に変えると微表情発現率が10%に上がることがわっています。(Yanら 、2013)。つまり、刺激が強くなると微表情は出やすくなるということです。  方法論の部分が意図的に隠されることもありますが、Tips 1でも書いたように、いくつもの専門分野について論じているインフルエンサーは1つ1つの論文を読む時間がなく、論文をサラっと流し読みをする、もっと限定して言うと、論文の要約や考察だけを読んで、方法論を読んでいない、あるいは精査していない、精査能力がないと考えられます。方法論を考慮しない論文の引用をしているインフルエンサーを見ると、「あなたこの論文、本当に読めてる?」と問いたくなります。論文の要約は、論文そのものを入手しなくても手軽に手に入り、サラっと読めてしまうため、科学の権威付けを利用したいインフルエンサーによく乱用されています。  かくいう私も、紙面の都合上、方法論をカットすることはあります。しかし、論文内容を紹介するときは方法論を必ず読み、この方法だったら結論の妥当性は担保できる、と思ったときにしか、論文内容を紹介していません。  以上、怪しい記事・文章を見分けるTipsでした。折角、文章を読むなら正しい知識を吸収したい。文章から正しい知識を得るには、論理的な読み方をしているか否かという読者側の問題もありますが、書き手の戦略によって知識が誘導されたり、不正確な知識が与えられてしまうこともあります。本日紹介したTipsをもとに文章の科学的妥当性を見積もり、読むに値する記事なのか書籍なのかを是非ご自身で判断してみて下さい。

【参考文献】

・清水建二「『微表情を読む技術は使えない』説の誤解を説く」(2018.10.12)ハーバービジネスオンライン  ・清水建二「『日本人特有の表情』は実在するのか!? 学術研究について回る誤解を解く」(2019.02.19)ハーバービジネスオンライン  ・Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514. ・Yan WJ, Wu Q, Liang J, Chen YH, Fu X. (2013) How Fast are the Leaked Facial Expressions: The Duration of Micro-Expressions. Journal of Nonverbal Behavior 37, 217–230. <文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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