「日本人特有の表情」は実在するのか!? 学術研究について回る誤解を解く
サイトには次のような見出しでその研究成果が公開されています。
「日本人の表情がエクマンの理論とは異なることを実証 -世界で初めて日本人の基本6感情の表情を報告-」
このエクマンの理論とは、幸福・嫌悪・怒り・驚き・恐怖・悲しみという基本6感情が表情に現れるとき、万国共通の表情筋の動きとして生じる、というものです。この表情の万国共通説は、例えば、様々な文化圏に属する盲目のアスリートが目の見えるアスリートと同じ状況に直面するとき(勝負に勝ったときや負けたとき)に同じ表情になるという観察事例などを含む種々の研究から確かめられています。
さて、話を見出しに戻します。この見出しを見ると表情の万国共通説が否定され、日本人の表情は特有である、と思ってしまいます。しかし、本当にそうでしょうか?
こんにちは。微表情研究家の清水建二です。
ちょっと実験です。次の3つのシナリオを頼りに、なるべく強く感情を喚起させてみて下さい。なお、一人きりで行った方がベストです。
①台所にあるごみ箱が匂います。あなたは嫌悪を感じ、吐き気をもよおしています。
このとき、どんな表情をしますか?
②想像して下さい。あなたは暗いところに一人でいたくないと思っています。ある晩、あなたが一人で家にいるとき、家の全ての照明が突然消えます。あなたは恐怖を感じています。震えています。
このとき、どんな表情をしますか?
③あなたの親友が別の街に引っ越します。あなたは悲しい気持ちです。
このとき、どんな表情をしますか?
これは、2019年2月12日に、国際学術誌「Frontiers in Psychology」のオンライン版に掲載された佐藤弥(こころの未来研究センター特定准教授)ら研究グループによる論文に登場する、「感情を刺激するための素材」として日本人の実験参加者らに提示されたシナリオです。
実験参加者らは、このシナリオを読み、感情を喚起させ、その表情を現します。こうして得られた表情を分析したところ、幸福と驚き以外の表情―怒り・嫌悪・恐怖・悲しみ―について、これまでに想定されていた万国共通の表情とは異なる表情が観察され、既存の理論の修正が必要であると佐藤氏らは結論付けました。
京都大学の研究成果を紹介する
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