イラスト/いらすとや
11月末から、地位や知名度もあるマンガ・アニメ関係者が一斉にSNS上で野党叩きの発言を繰り返す珍現象が広まっている。
彼らが野党叩きのネタにしているのが、今国会の会期中に提出される見通しだった
「メディア芸術ナショナルセンターの整備及び運営に関する法案」(別称・MANGAナショナルセンター法案)だ。超党派の国会議員で組織される
「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」が提出を目指していたこの法案は、
マンガ、アニメ、ゲームなどの資料やデータなど保存と公開を目的とした施設の設立を目的としたものだ。
その法案が、なぜマンガ・アニメ関係者による野党叩きのネタになっているのか。晒しになってしまうので個別の発言をSNSから拾い上げるのは避けるが、野党を叩く関係者の主張は
「野党が記述試験中止法案とバーター取引をしているために国会の会期末に間に合わず廃案になってしまう」というものだ。そうした主張を後押ししているのが7月の参院選で54万票を超える「オタク票」を抱えて当選した自民党の
山田太郎参議院議員の発言だ。
11月30日にニュースサイト「BLOGOS」に掲載された「「
今こそアニメに恩返しを」山田太郎議員が語る“MANGAナショナルセンター法案”の重要性と直面する廃案の危機」の中で、山田議員は次のように発言している。
「野党が11月14日に『記述試験中止法案』という法案を出したことが、メディア芸術ナショナルセンター法案の今国会での成立が厳しくなった背景にあります」
「あとはどのタイミングで文部科学委員会に出すかという段階まで来ていたのに、記述試験中止法案と取引にされてしまった。記述試験を通すなら、メディア芸術ナショナルセンターを通すというようになって、日にちばかりが経ってしまった」(同記事より)
与党が優勢な国会の勢力図の中で野党が「記述試験中止法案」を出したことで法案の成立が難しくなるというのも、にわかには納得しがたいが「業界内では」地位や知名度もあるマンガ・アニメ関係者がSNSで発言しているためか、情報を精査することもなくリアリティを持って受け止めている人も少なくないようだ。
この情勢を叩かれる側になってしまった野党サイドではどう考えているのか。「記述試験中止法案」と「メディア芸術ナショナルセンター法案」の両方を扱う場である衆議院の文部科学委員会に属する立憲民主党の
川内博史衆議院議員は次のように語る。
「不正確な情報が流れていると思います。
『メディア芸術ナショナルセンター法案』は、立憲民主党はじめ野党の多くは賛成で、採決にも反対ではありません」
川内議員によれば野党側は採決にあたっては「記述式試験中止法案」も同時に採決することを求めたのだが、それに対して与党側は、
それなら両案とも採決しないとしたという。
ここで重要なのは野党側は中止法案に賛成するのではなく「採決」を求めただけだということ。与党の反対で否決される可能性が高いにも拘わらず
与党は採決すら拒否したのである。
「
与党が『メディア芸術ナショナルセンター法案』を成立させることよりも、『記述式試験中止法案』を採決したくなかったということではないかと思われます」。
さらに川内議員は言葉を選びながらも、野党叩きの材料となった山田議員の発言に苦言を呈する。
「山田太郎議員は、野党が『記述試験を通すなら、メディア芸術ナショナルセンターを通す』と主張したかのように言われていますが、それは誤解です。
野党側は同時採決を主張したのです。山田議員は、野党が提案した『記述式試験中止法案』を『野党が一方的に出してきた政局法案』だと言われていますが、私たちは、当面する重要課題に対する正しい提案であると自負しています」
自身も不正確な情報に基づく叩きをTwitterなどで投げつけられている川内議員だが「メディア芸術ナショナルセンター法案」には賛意を表明し「野党の多くも賛成している法案なので法案は成立し、「メディア芸術ナショナルセンター」は設立されます」と語る。