「MANGAナショナルセンター法案が野党のせいで危機」の嘘。業界関係者は煽られず冷静な判断を

入札もしていない公共事業で委託先が決定?

 ところで、この「メディア芸術ナショナルセンター」とはいかなるものなのか。これまでに明らかになっている情報を総合すると、出来上がるのはマンガ・アニメ・ゲーム・特撮などの資料を収蔵し展示やイベントを行う施設。国立国会図書館の分館機能なども持つが、運営は指定法人に委託される形だ。  2015年12月にマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟で「MANGAナショナル・センター構想の早期実現を求める緊急決議」が実施された際に配布された資料では施設のPFI(公設民営)での運営が言及されていたが、これはそのまま実施に向けて動き出したようだ。  ただここでおかしなことがある。いまだ法案も通らず、予算も入札も行われていない状況なのに運営を委託される指定法人が決まっているような動きがあることだ。  その指定法人というのは明治大学である。  筆者は2015年12月の時点で明治大学関係者から「PFIで運営されることになれば、うちが受けることになる」という発言を得ている。  明治大学は2009年に記者会見を行い図書館及び、同人誌即売会も開催できる東京国際マンガ図書館(仮称)を2014年度目標で東京都千代田区猿楽町の旧付属中高の土地に設立することを発表していた。その後、この計画はまったく進展がなく2019年の現在も更新の止まったサイトに「完成目標2014年度」を明記している。それもそのはず、2015年の時点で前述の関係者は「この計画を持っていった」とも発言しているのである。  いかなる情熱や思いがあったとしても公共事業で入札もしてないのに委託先が本決まりになっているというのは、あってはならないことのはずだが。  川内議員には、野党叩きの問題だけでなく、この点も尋ねてみた。 「法案も予算も成立せず、入札も実施されていないのに発注先が決まっているのは公共事業ではありえない、と私も思います」

不安を煽って進められる「公共事業ではありえない」不可解な計画

 業界関係者にも「なぜ、国会図書館の機能を拡張するのではなく民間委託前提なのか」と首をひねるものも多いが、表立って発言はしにくい。下手に発言すればSNSで炎上して自身の関わっている企画なりに影響が及ぶことを恐れているのだ。  加えて、7月に起きた京都アニメーションの放火事件や10月の台風19号で多くのマンガ資料を所蔵していた川崎市民ミュージアムが水没したことで「アーカイブの設立に異論を述べるのがおかしい」というような声が多数派になっているようにも見受けられる。それでも、たとえ法案が通っても「メディア芸術ナショナルセンター」は問題だらけといえる。  あるアニメ関係者は匿名を条件にこんなことを話してくれた。 「京アニや川崎市民ミュージアムのようなことを防ぐために『メディア芸術ナショナルセンター』が必要だという説明はあまりにも雑です。私企業の所有するデータをすべて管理することなんてできませんし、川崎は公営の施設なのに水没している。なぜこんな説明で納得する人が多いのか疑問です。こんなドロドロと嫌なことばかりが蓄積した計画には賛同はしないけど反対もせず、距離を置きたいですね」  こうしてみると、必死で野党叩きを繰り返している人々は「メディア芸術ナショナルセンター」になにか甘い汁を期待しているのではと穿った見方もしてしまう。   今年、大英博物館で大規模マンガ展「The Citi exhibition Manga」が開催されたことに多くの業界関係者が賞讃の声を寄せた。しかし、展示されている作品のリストにはがっかりとするものしかなかった。あくまで欧米ウケする作品が並べられたに過ぎなかったのだ。そんな展示を有り難がるのは、マンガやアニメが大衆の側から権力者のオモチャへと簒奪されることから目を背けているだけだと思った。 「メディア芸術ナショナルセンター」もともすれば歴史の収蔵庫ではなく単なる体制のプロパガンダのためのハコモノができるだけである。  地位や知名度もあるマンガ・アニメ関係者が野党叩きをしている姿をみると、すでにそうした「前兆」が見えてきたような気がするのだが、願わくばそれが錯覚であって欲しいものだ。 <取材・文/昼間たかし>
ひるまたかし●Twitter ID:@quadrumviro。 ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿、取材を続ける。政治からエロ、東京都条例によるマンガ・アニメ・性表現規制問題を長く取材する
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