百貨店とともに成長を遂げた「オンワード」系のブランドは、かつては「百貨店に行かないと買えない」というあこがれの存在となっていたが、それは昔の話。「百貨店に行かない」どころか、地方を中心に百貨店の撤退が相次ぎ「百貨店に行けない」エリアの人々が増えたことは、ブランドの知名度低下にも繋がっているであろう。
筆者の知り合いである複数の20代男女に聞いたところ、
「組曲」「Jプレス」などオンワード中核ブランドはおろか「オンワード」という名前さえも聞いたことがないという人も多く、「普段から『百貨店に行かない』『スーツを着ない』人・世代にとっては、中核ブランド名さえ知られていない」という危機的状況に陥っている。
その影響は、各ブランドの客層にも如実に表れている。例えば、オンワードの中核ブランドである女性向けアパレル「組曲」は20代、「23区」は30代のモデルを採用することが多く、2000年ごろまではその世代が顧客の中心であったと思われる。しかし、近年の商材を見ると「若者向け」と感じさせられるようなデザインのものはオンワード系のなかでは数少ないショッピングセンター向けブランドである「
FAM/SiS」には投入されている一方、
「組曲」「23区」の現在の実際の想定顧客層はそれよりも「+10歳以上」となっているような印象を受ける。
かつては「FAM/SiS」についても「組曲」の姉妹ブランドであることを全面的に押し出していた時期があり、百貨店向けの高級商材への誘導をおこなう役割も果たしていたと感じられたが、現在はかつてほどそうした傾向も見られず、端的にいえば「経営の要である百貨店向けブランドが新しい顧客を取り込もうとしていない」状況だ。
しかし、
百貨店不況といわれる昨今でもオンワードの「百貨店重視」の姿勢は変わっておらず、一例を挙げると「組曲」の関東地方の店舗は百貨店内のみ。イオンやアリオはおろか、賑わう駅ビル「アトレ」やファッションビル「パルコ」に出店している例すらないのだ。また、百貨店が消滅した府中市、松戸市、春日部市などの店舗は百貨店の閉店に合わせて近隣ショッピングセンターなどへの移転を行わずに「完全撤退」している。一方で「FAM/SiS」などといった数少ないショッピングセンター向けブランドについては「百貨店内店舗の撤退数」を補うほど増えておらず、まさに
百貨店とオンワード系アパレルは「運命共同体」であるといえる。
かつて多くのオンワード系ブランドが出店していた松戸伊勢丹。
松戸市内に競合する商業施設は数多くあるものの、百貨店が存在しないためその全てが市内から「完全撤退」となった。
オンワードは2016年より
ECサイト「オンワードクローゼット」の運営を開始したほか、今年になって国内唯一となる自社工場「
カシヤマサガ」(佐賀県武雄市)での製造を開始するなど、国内外の顧客に対して「日本製」の品質を武器に勝負をかけたい考えだという。
しかし、今回の「
600店閉店」によりさらなる販売チャネル縮小は確実で、今後どういうかたちで「新しい顧客の取り込み」をおこない、反転攻勢を目指すのかは見えづらい状況だ。
「店が消える」「売れ筋商品が入荷できない!」――地方百貨店の苦悩
ここ数年のあいだに店舗整理をおこなった百貨店系アパレルはオンワードだけではない。同じく百貨店アパレル大手として知られる
「ワールド」や「TSIホールディングス」などは、いずれもオンワードよりも早い時期から店舗整理を進めている。
こうした百貨店アパレル各社による店舗整理は、とくに
地方百貨店に対して暗い陰を落としている。当然、店舗整理は都心の百貨店よりも物流コストが高く、売上高・店舗規模も小さい地方の店から行われることが多く、抜けた床を埋め切れていない地方百貨店も少なくない。そればかりか、例え店舗が閉店せずに辛うじて残ったとしても、商品の製造を絞るなかでトレンド商品は売り上げの大きい都心百貨店でのみ販売されるという例もみられる。
閉店セールをおこなうオンワードの店舗(23区)。
23区は百貨店における「30代向けアパレル」の代表格と言われていた。
このような
「新しい顧客の取り込み」を図るどころか「地方切り捨て」ともいえる扱いは、全国に毛細血管のように張り巡らされていた地方店舗の更なる不振を招き、結局は撤退に追い込まれてしまう。そして、百貨店ブランドの地名度は下がり、ハコを貸していた地方百貨店自体も「品揃えが悪い」という印象から不振に陥るという悪循環を招く一因にもなっている。
かつて、1990年ごろのDCブランドブームの頃は、時代のトレンドとなっていたアパレルを求めて百貨店にも若い客があふれていた。こうした時代に人気を集めた「百貨店アパレル」たちが何らかのかたちで次の世代に対してもブランド力を発揮するべく努力をおこなっていれば、ここまでの悪循環はある程度防げた可能性もあるが、今や「時すでに遅し」といった状況だ。
一方で、近年はこうした地方百貨店の状況を「商機」と捉えて新しい事業に乗り出した企業も出てきている。それは果たして――またの機会に紹介したい。
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>