混迷する共通テスト、どこに責任があるのか<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>
1、2、3)、大学入学共通テストの「記述式」回答について、筆者の専門である数学に絞ってその問題点を解説してきました。最後に、これまでの経緯と現状を踏まえて建設的な意見で締めくくろうと思います。
今ある現状は、すなわち、2021年1月実施の共通テスト、特に数学と国語の記述式については到底「テストの体をなしていない」というものでした。「テストの体をなしていない」という点でのもっとも重要な点は「50万人を公平に採点ができない」という点です。これをできると言い張ることが、実施者への不安要素を深く重くするのでした。
再度の指摘ですが、公平性についてはほんの一例として次のような場合があります。
「◯と×をn個一列に並べるときに両端が同じである並べ方は何通りか」という問題の正解は、2^(n-1)通りです。2^(n-1)通りであって、2^n-1通りではありません。これを下図のように書いた解答があったとします。(※なおサイトによっては図が表示されない場合があります。その場合はHBOL本体サイトで御覧ください)
みなさんは1~6のどれを正解にしますか。これは、採点者によって判断が分かれるところです。ですので、通常は似たような答案を持ち寄って合議するのです。しかし、共通テストの記述式の問題でこのような問題が出題されたとき、北海道、東京、九州で現れるであろうこのような区別のつきにくい答案を本当に同じ基準で採点できるのでしょうか。
また、ここに来て文科省側から「自己採点をする力」「自己採点力」という用語が出てくるようになりました。自己採点をする力も養うべきだというものです。
「『記述式では自己採点ができない』という反対意見もあるが、自己採点できないことこそが課題。自分の解答と模範解答を比較し、検討する力がないということだ。生徒に自己採点をする力を付けるにはどうするかが重要」(荒瀬克己大谷大教授2019年11月27日付けの東京新聞朝刊の中で)
荒瀬克己教授は、これまで文科省高大接続システム改革会議で中心的な役割を果たし、中央教育審議会委員を務める方です。
これは自分の解答を客観的に評価できる力をもたなければならない、採点基準と自分の答案を見てそれが同じかどうかを判断できる力を養わなければならないということなのでしょう。しかし、これには反論が多く、そもそもこの共通テストの記述式では、
採点者ですら、答案の中には正しいか誤りであるかの判定が難しいものがあるのに、受検する人達にその力を要求するのはおかしい
のです。もちろん、受検者が自己採点できる力をもつことは理想かもしれません。しかし、採点者よりも上の能力をつけることが当然のように言われる試験はあまり聞いたことがありません。
採点に関してですが、野党の議員が萩生田光一文科相への質問の中で、ベネッセ主催の模試の採点経験者からの内部情報として次のようなものを紹介しました。以下は、採点経験者の声ということになっています。
•「正しく採点できたか自信がない」
•「マニュアルがよくわからないまま本番の採点をした」
•「不明な点はあとから説明すると言われたが、放置された」
•「新人の採点者は基本的な質問をしている」(そんなこともわからないのかという質問をしている)
•「採点中に昼寝をしている人もいた」(緊張感がない)
•「質のいい採点者をクレームの多い高校にあてる」
•「アルバイトも入れ替わり立ち代わり採点会場を出入り」(セキュリティーがあまい)
これに関しては、ベネッセ側の反論の機会も与えるべきとは思いますので、参考程度に捉えてください。ただ、私のところにも同様なずさんな採点状況の情報がいくつも寄せられています。
このように、共通テストの記述式の部分は、きちんと公平に採点される見込みは少なく、それを文科省側が否定するのであれば、「企業秘密」(≒考えていない?)を理由にするのではなく、積極的に具体的な情報を開示し説明する必要があります。
きちんと採点されない試験は、到底受検者の学力を反映していません。そのような試験は到底、
そもそも試験の体をなしていない、試験と呼べるものであるかどうかも怪しい
ということになります。そのようなものは、
もはや大学入学を希望する人たちが、大学の個別試験(国公立大の2次試験など)を受検する前の単なる儀式にすぎず、採点業者に受検料という寄付行為を行ってから受検する仕組み
と見えます。
資源の乏しいこの国にとって、教育は、将来のためのいろいろな意味での原動力でありますから、民間企業に(金銭だけでなく、この役割を持つことの)利益を与えている場合ではないのです。今回の責任は?と問われれば、この状況を作ってしまった文科省にあると言いたくはないですが、言わざるを得ません。ですので、文科省には、民間企業の方を向くのではなく、試験を受ける人達の方を向いて今後進めてもらいたいと期待します。
3回に渡り(
数学と国語の記述式は「テストの体をなしていない」
文科省は民間業者のほうではなく、試験を受ける人のほうを向け
この連載の前回記事
2019.12.02
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