26歳で夭折し、今日に至るまでエミネムやケンドリック・ラマーといった大物たちから強い崇拝を受けていることで伝説化している“魂のラッパー”、2パック。晩年のイメージがトラブルメイカーだったこともあり、生前はかなり誤解されたイメージもあったが、彼はいつでも社会的な平和と敬意を求め続けた男であり、このデビュー・アルバムに至っていえば、かなりの社会派。
出口のない黒人たちの行き詰まった状況(「Trapped」)や、同胞たちへの強い連帯(「If My Homie Calls」)、マルコムXとキング牧師双方の言葉に耳を傾けるよう歌い掛ける姿勢(「Words Of Wisdom」)からもパックの本質はうかがえるが、そうした社会派ラッパーの中でも彼の異質性がうかがえるのは「Brenda’s Gor A Baby」。「知性派でさえもマッチョ」のイメージが強いラップ界において、彼はこの曲を筆頭に終生フェミニズムを題材にし続け、今日、女性ラッパーからも多大なリスペクトを集めている。
『Little Earthquakes』Tori Amos(1992)
『Little Earthquakes』Tori Amos(1992)
’90年代に入ると、女性アーティストの主張も、これまでのような「女性の社会進出、自立」といったもの以上の、これまで公に口に出して表すことができなかった精神的苦悩を紡ぎ出すようになるが、その代表的先駆こそトーリ・エイモスだ。
デビュー作である本作で彼女は「Me And A Gun」で、自らが被害者となったレイプ体験を切々と歌い、衝撃と物議を呼んだにとどまらず、女性アーティストの表現領域を大きく拡大した。彼女は次作『Under The Pink』の中の「Cornflake Girl」では「女性器切断」と、これまた性のタブーからの解放と女性の尊厳を強く訴えている。
また、そうした性的なテーマのみならず、彼女は本作での「Crucify」のように、長年のキリスト教的な道徳観に由来するとされる「自己嫌悪」との内面葛藤を歌うなど、内面における精神的苦闘と真正面から戦うことを決して恐れない勇気ある女性でもある。
ついに復活したRATM
『Rage Against The Machine』Rage Against The Machine (1992)
『Rage Against The Machine』Rage Against The Machine (1992)
ロックの歴史上、政治的なバンドは数多く存在すれど、Rage Against The Machine(RATM)ほど、その成り立ちから“戦うこと”を宿命づけられた存在もない。チェ・ゲバラの革命思想を持ち、反戦活動家のメキシコ移民のヴォーカリストに、公民権運動の活動家を親に持つ、ハーヴァード大学卒の元民主党議員秘書のギタリスト。燃えたぎる闘志と理論武装が高い沸点で融合し、さらにトム・モレロのイノヴェイティヴなスクラッチ・ギターで音楽そのものを革新しながら世に強く反抗していたのだから、鬼に金棒だ。
本作は、そんな彼らの破格の実力が遺憾なく発揮された伝説のデビュー作。警察の暴力に正々堂々と立ち向かった「Killing In The Name」や、権力のメディアに寄る洗脳を糾弾した「Bullet In The Head」、反戦・反権力を叫んだ「Know Your Enemy」、白人優越主義への怒りを込めた「Township Rebellion」など、今日にも通じる普遍のメッセージを投げかけている、
『Pussy Whipped』Bikini Kill (1993)