夫が、家計費を厳しく制限し、日常的に妻を「指導」したり、不満や非難を繰り返していれば、彼は、押しも押されぬモラ夫である。しかし、少なくない数の
被害妻は、夫がモラ夫であること、自らが被害妻であることを認めない。私は、モラ被害妻の相談の実務経験から、モラ被害にはパラドックスがあると思っている。
すなわち、モラ被害を受け続けると却って、その被害を認めない傾向が生じるのである。
整理すると、以下のようになる。
1、モラ被害が深刻なほど被害者は自責の念を強め、モラに気付き難い。
2、モラ被害が長いほど被害者の洗脳が進み、自らの心身の異常を軽視する。
3、モラによる精神破壊が進むほど被害者は、まだ頑張れると考える。
4、モラ度が高いほどモラ夫は、妻にはよくしてやってると主張する。
もしも、あなたが、
① 私にも悪いところがあるから夫が怒る
②いつ夫に怒られるかビクビクしているが、心療内科へ行くほどではない
③ 子どものためにもまだまだこの結婚を維持し頑張れる
などと考えているとしたら、モラ被害はすでに深刻で、あなたの心身にたまったダメージは相当なものである可能性が高い。
モラ被害を放置すると、心身が壊れていき、さまざまな疾患にかかる。若年性更年期障害になったり、うつ症状がひどくなったりすることもある。
そして、洗脳から一歩抜け出しても多くの場合、
揺り戻しがある。次のような疑問が妻の心に浮かぶのである。
①おかしいのは私?
②(夫のモラについて)これくらい、普通のこと?
③私の我慢が足りない?
④(別居、離婚は)子どもを不幸にする?
⑤(夫の言動は)本当は、モラハラなんかではない?
⑥(夫の言うように)モラハラはむしろ私?
以上のような「揺り戻し」は、むしろ被害妻の証拠である。被害妻はモラ夫によって自責の傾向を強められているので、洗脳から抜け出し始めても、油断すると、自責の念に囚われてしまうのである。
長期間、自責の念を持ち続けると、心身を壊す危険がある。
心身が壊れる前に、被害妻側に立つ専門家に相談したほうがよい。
<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>