── 参議院では、憲法改正の発議に必要な3分の2に足りていません。
小林:決して安心してはいけません。
自民党が、改憲派の野党議員を一本釣りすることなど容易なことです。
自民党は、世論調査を頻繁にやっており、国民投票に踏み切るタイミングをうかがっています。いま、国際情勢が悪化する中で、改憲賛成がじわじわ増えています。安倍政権は北方領土交渉で成果を上げることができませんでしたが、ロシアによる四島不法占拠に反発している国民も少なくありません。また、尖閣諸島などでの中国の行動に対する国民の警戒感も高まりつつあります。さらに、北朝鮮がミサイルを発射し、韓国との関係もこじれています。こうした厳しい国際情勢の中で、「日本に軍隊がなく、国防の意思をきちんと示さないから、外国から舐められているんだ」と考える人が増えています。
国際情勢が厳しくなる中で、左派の平和主義が説得力を持ちにくくなってきているのも確かです。安倍政権による改憲を阻止するためには、
専守防衛によってわが国の安全保障を維持できることを明確に示すことが重要です。
わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。その力によって、
9条の範囲内で「専守防衛」の能力を高めることができます。「万が一にも日本に手を出せば、致命傷を負う」と他国が考えるように、日本は専守防衛に集中すべきです。その上で、わが国は
海外では軍事力の不行使に徹し、対立する諸国間の仲裁と人道復興支援に邁進すべきです。
安倍政権による改憲を批判する人の中には、非武装中立を信奉し、自衛隊廃止を説く人もいます。しかし、いまはその議論をしているときではありません。
まず、安倍政権の改憲を阻止し、それからその議論をすればいい話です。
国際情勢の悪化に伴って、改憲賛成がさらに増えてくる可能性もあります。賛成が過半数を超え、その状態が続くと判断すれば、国民投票に自信を持って、安倍政権は一気に動くでしょう。決して油断はできません。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
こばやしせつ●法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在。