── 安倍政権の改憲案は危険ですが、自民党の憲法観自体に大きな問題があります。
小林:本来、
憲法は主権者である国民が権力者を縛るものです。
国家が個人の基本的人権を侵害することがないように制限するルールが、近代立憲主義における憲法なのです。ところが、自民党の憲法観は逆立ちしたものです。自民党議員と憲法論議をしていて驚かされることは、
「権力を規制する『制限規範』としての憲法もあるが、権力に授権する『授権規範』としての憲法もあり、私は後者を採る」などと公言する者が多いことです。
現行憲法は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)と規定していますが、
2012年に自民党が出した憲法改正草案は、この規定を尊重義務と擁護義務に分け、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」と定めているのです。
つまり、
下々の国民がきちんと憲法を尊重しているかどうかを、憲法の擁護者である権力者が監視しなければならないという発想なのです。
また、現行憲法は「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)と定めていますが、
自民党の草案は「個人」を「人」に書き換えてしまいました。
人間はそれぞれ異なるDNAを持っているので、それぞれ個性があり、異なる好き嫌いを持っています。だから、意見が異なるのは当然です。お互いの違いや個性を最大限尊重し合うことが、人権が保障された社会です。
自民党の草案は「個性を持った個人の尊重」という原則を切り捨てようとするものです。全体主義指向なのです。
── 7年に及ぶ安倍政権で、すでに憲法の理念が踏みにじられてきました。
小林:安倍総理は当初、
憲法96条を改正して改憲発議要件を緩和しようとしました。
法の支配を無視した「裏口入学」です。その後、96条改正を引っ込めたと思ったら、今度は
解釈改憲によって、集団的自衛権行使を容認する安保法制を強行しました。これは明らかに憲法9条違反です。
2014年に施行された特定秘密保護法は、世界でも稀に見る悪法です。政府が秘密と決めたものは、それが何であるかも説明せず、永遠に秘密として闇に葬ることができるのです。
政府が何をしたかを、主権者国民がわからなくするものであり、
国民の知る権利に対する侵害で国民主権に対する反逆です。
安倍政権はまた、メディアに対して圧力をかけてきました。総務大臣が「公平性」を欠く放送を繰り返した放送局の電波停止に言及したこともありました。「使ってはいけない論客」リストが流され、そこに私の名前も載っていたそうです。メディアが萎縮するのは当然です。いまや、ほとんどの地上波が政権批判をできなくなっています。
安倍政権は政権におもねる御用メディアを育て、敵対するメディアを潰してきたのです。
表現の自由、報道の自由、国民の知る権利が著しく脅かされているということです。
安倍政権はまた、「働き方改革」と称して高度プロフェッショナル制度などを導入しましたが、実質的には「
残業代ゼロ制度」であり
、勤労の権利を侵害するものです。
2017年には、
安倍総理は野党による臨時国会召集要求を3カ月も拒みました。そして召集に応じるや、審議をせずに冒頭で解散してしまいました。これも、
「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は(臨時国会)の召集を決定しなければならない」と明記した憲法53条に反する暴挙です。
2016年に導入されたマイナンバー制度は、国民のプライバシーを国が管理するものであり、憲法13条のプライバシー権を侵害するものです。