1日があっという間。だからこそ妻には自分の時間を大切にしてほしいと思うようになった
続いて、自宅を主な職場として働きながら家庭に比重を置き、「兼業主夫」として生活する男性に話を聞いた。自営業をする大谷さん(仮名)に話をうかがった。
大谷さんの妻は出産後、1年間の育児休業を取得。そのころ大谷さんは仕事で外出することが多く、日中はもちろん夜にも家を空ける日があった。家事と育児の主な担い手は妻で、大谷さんは「このままではいけない」と感じるようになる。在宅メインで働ける仕事を優先し、兼業主夫をすることを決意。
「当初妻は『あなたがやりたいことを邪魔したくないから、いままで通り私が家のことをするよ』と言ってくれました。でもそれだといつか妻が疲れてしまいます。私にとって妻が元気でいてくれることが何よりも大切なので、気持ちだけを受け取り、家事と育児を私が多く担当することにしました」
河内さんと同じように、大谷さんも日中の家事の多さに驚いたという。
「子どもを保育園に送って洗濯物を干し、掃除をし、ランチを食べ、家の片づけをし、買い物に出かけるなどしているとあっという間に時間が経ってしまいます。家事を終えて仕事をすると、自分のことをする時間的な余裕がほぼありません。率直に言って、毎日このような生活を送っていた妻はすごいと思いました」
ホッとする時間もないことに気がつけたからこそ、大谷さんは「妻にも自分の時間を持ってほしい」という気持ちが強まった。
「妻が自室で漫画や音楽を楽しんでいるとき、子どもが入っていかないように別室で私が遊び相手をします。いまの生活はまだ始めたばかりですが、妻は以前より負担が減って笑顔が増えました」
地域のつながりを感じ、「この街に住んでいる」気持ちに
続いては、1年半の育児休業中に期間限定で専業主夫を経験した吉田さん(仮名)のケース。
もともと妻はキャリア志向で仕事が大好きだったため、吉田さんは「自分の方が家事や育児に向いているのでは」と考えていた。
「育休取得と主夫になることを提案したとき、妻からは『本当にそれでいいの?』と確認されたました。でも私は『2人にとって一番自然な形』だと思っていました。
男性の育休については職場の理解が得られないケースがありますが、幸いにして私の勤務先は快い対応をしてくれました。とはいえ、『売り上げをあげる人材がいなくなり残念』という圧は感じましたね。それでも、長い人生の中で子育てにコミットできる機会の方が貴重だと信じていました」
吉田さんも家事と育児の大変さを感じたが、それによって自分の行動パターンが変わるというメリットがあった。
「育児では、想定外のことの連続です。子どもと一緒だと思い通りにいかないのでストレスが溜まります。
以前は計画を立てて淡々と実行するロボットみたいなタイプだったのですが、主夫生活で感じたストレスを妻に少しずつ打ち明けるようになりました。黙って我慢するタイプから、感情を表現するタイプに変わったわけです。妻が仕事から帰ると、待ってましたとばかりに今日の子どもの様子を伝えたこともありましたね」
子どもを持つと、普段の買い物や散歩などで、外出する機会が増える。その中で吉田さんは、地域のつながりを意識するようになった。
「近所で知り合いができると、『この街で暮らしているんだな』と思えます。地域の方との交流を通じて、あらためて地元の良さを実感できました。これは、職場と家を往復する生活では感じられないことです」
子どもの成長を隣で見て感動したり、地域のつながりの素晴らしさに気づいたりと、主夫経験を持つ3人は人生に豊かさを感じている。これらは仕事だけの日々では気づきにくいことだ。
とはいえ、主夫は家庭と仕事の両立策のひとつでしかない。家庭によって事情は様々なので、すぐに家庭優先の生活を送れないこともある。
しかし、「いまの役割から絶対に抜け出せない」と思い込み、身動きがとれずに悩んでいる人にとっては、「こんなやり方があるのか」と、生き方の選択肢を感じてもらえたのではないかと思う。
河内さんのように離職して専業主夫を選択するのは難しくても、吉田さんのように期間限定でトライするやり方もある。家事と育児の大変さ、その中で感じるさまざまな気づきは、その後の夫婦関係や人生に良い影響をもたらすはずだ。
最後に、いま育休を取りたいけれど迷っている、家庭に比重を置くことにためらいがあると思う男性に向けて3人がメッセージを寄せてくれたので紹介したい。
「仕事は会社のためにするのではなく、自分(家族)のためにするものだと私は思います。仕事は大切ですが、それって、プライベートが充実して初めてできることではないでしょうか。仕事と育児を両立させたいのであれば、まずは家族優先思考にする。これに尽きるかと思います」(河内さん)
「仕事をしたい妻、家庭を支えたい夫がいてもいいと思います。役割を変えることで一時的に収入が下がったり、家事が非効率になったりしたとしても、夫婦が納得して選んだことであれば、家族の関係は良くなると信じています」(大谷さん)
「男性=仕事という価値観はもう常識ではなくなりつつあリます。仕事だけが男性にとってのメインの役割ではないはず。家事と育児も立派な『仕事』です」(吉田さん)
<取材・文/薗部雄一>