他人のツイートをリツイートしたら名誉棄損!? 橋下徹氏をめぐる裁判の異様な判決(2)

橋下徹氏

橋下徹氏

「ソーシャルネットワークサービス(SNS)で第三者の投稿をリツイートしただけで名誉毀損に問われ、賠償金を支払わされる」という判決が9月12日に大阪地裁で出された。  この裁判は、「日本維新の会」創設者、元大阪府知事・大阪市長の橋下徹弁護士が2017年12月、インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)の岩上安身代表を被告として、110万円の損害賠償を求めた名誉毀損訴訟(本訴、岩上氏も反訴)。大阪地裁第13民事部(末永雅之裁判長、重髙啓右陪席裁判官、青木崇史左陪席裁判官)は9月12日、岩上氏に33万円の賠償を命じる判決を言い渡した。  岩上氏は判決後の記者会見で「仰天した。予想よりずっと悪い判決だ。橋下氏側の主張がそのまま受け入れられた不当な判決だ」と述べ、13日に大阪高裁へ控訴している。舞台を高裁に移したこの裁判について、前回に続き振り返る(全3回予定)。 【前回記事】⇒他人のツイートをリツイートしたら名誉棄損!? 橋下徹氏をめぐる裁判の異様な判決

判決はコメントなしのリツイートは「賛同」表明と認定

 判決は21ページあり、11ページ以降に、「裁判所の判断」が書かれている。まず、11ページの「1 争点1(名誉棄損の有無)について」「(1)本件投稿の行為主体について」で、こう判示している。 <他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合、何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く、投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常である> <一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると、何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば、その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるというべきであるから、この点に関する被告の主張は採用できない>  判決を書いた裁判官たちは、自分でSNSを使ったことがあるのだろうか。この裁判のポイントは、他人の元ツイートの引用(リツイート)が岩上氏自身の表現行為と言えるかだったが、判決は「リツイート(拡散)」と書き、「単なる情報提供のためのリツイートであっても、ノーコメントで拡散しているので投稿の行為主体として責任がある」と判示した。  単純なリツイートとコメントを付けてのリツイートを同一視している。判決は、第三者の言論を紹介しただけだという主張に対しては、十分に検討していない。

橋下氏が直接叱責した幹部のうちの誰かが自殺と解釈

 判決は<(2)本件投稿の名誉棄損行為該当性について>としてこう述べている。 <原告が「生意気な口をき」いた人物と「自殺にまで追い込」まれた人物が別人であることをうかがわせる記載はなく、「20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき」の部分と「自殺にまで追い込んだ」の部分は読点を挟んで順接されており、原告が「生意気な口をき」いた人物について「大阪府の幹部たち」として特定した後に続く「自殺にまで追い込」まれた人物については何ら特定・限定する文言を付していないことからすると、一般の閲読者の普通の読み方と注意を基準とすれば、「自殺にまで追い込」まれた人物が、原告が「生意気な口をき」いた人物である「大阪府の幹部たち」のうちの誰かを指すものと理解される表現というべきである>  判決はその上で、<本件投稿は、「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実を摘示する表現と認めるのが相当である>と判示している。  裁判官たちは元ツイートの内容を、「知事であった原告が、府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」と独自に読み替え、原告の言動を直接受けた府職員が自殺した事実はない指摘。元ツイートに書かれたことには「真実性も真実相当性もない」と判断し、岩上氏による名誉毀損を認定したのだ。
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「SNS閲覧者はリンクなどを検索しない」という決めつけ
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