審議会に諮問された「幸福の科学大学」の「教育」と、その問題点

幅広い分野での学問の危機

 信者の人権や税金の問題にとどまらない。「エル・カンターレ文明の発信基地」を標榜する幸福の科学大学によって、外部の学問分野も侵食されるという問題も予想される。  前述のような理系オカルト研究だけではない。たとえば「幸福の科学は宗教として優れている」かのような宗教研究ですら「大学の教授」が発表できるようになる。  かねてより産経新聞や夕刊フジ、その他スポーツ紙が、幸福の科学の広告を大々的に載せ、ヨイショ記事や関係者の連載記事を載せ、夕刊フジに至っては霊言本の内容をさも通常のニュース記事であるかのように偽って掲載したことまである。  大学ができれば、教団はメディアを通じて幸福の科学関係者を「大学教授」などとして露出させ、自らの主義主張をアピールできる。宗教分野に限らない。政治、外交、社会問題や時事的なニュースなど、これまでも教団は様々な分野において教祖の持論をアピールする活動を行ってきた。そこに「大学」や「大学教授」という権威をまとった手法が加わることになる。  こうした活動に加担する外部の知識人にとっても、「宗教ではない。大学から報酬を得ているだけだ」という形式論的な自己正当化をしやすくなるだろう。  そうなる前から、渡部昇一氏など保守系言論人が幸福の科学の宣伝に加担してきた。ジャーナリストの佐々木俊尚氏にいたっては、『公開霊言 スティーブ・ジョブズ 衝撃の復活』出版記念イベントで関係者と対談し、Twitter上で幸福の科学を「カルトではない」と断言している。幸福の科学が「大学」という権威をまとうことで、こうした行為のハードルはいままで以上に低くなる。  学術団体も無関係ではいられない。「大学」ではないHSUならともかく、認可された「幸福の科学大学」の関係者を門前払いできるだろうか。何かと言えば「信教の自由の侵害!」と騒ぎ立てる教団の勢力を、毅然と拒絶するのは容易ではない。根拠をもって拒絶できるほど幸福の科学についての知識を備えた学術団体など、宗教研究の分野以外にどれほどあるだろう。  前述のようなHSUの「学生」や「プロフェッサー」による外部の学会で発表も、すでに教団がウェブサイトで宣伝し実績としてアピールしている。大学としての認可を得れば、「◯◯学会で発表しました」という教団の宣伝に、学術団体が望まずとも利用されるケースはさらに増えることは目に見えている。  幸福の科学大学が認可された先に予想されるのは、同大学内にとどまらない広範囲での「宗教による学問の侵食」だ。「変な大学が1つできる」だけでは済まない

認可などもってのほかだ

 だからこそ、以前の記事で書いた「幸福の科学大学」の前回申請時の萩生田光一・現文科相の立ち回りは悪質と言える。審議会側が難色を示していた大学の設置について萩生田文科相は、学校法人側に学長についての名義貸しまで指南して、認可さえ得てしまえば後で好きにできるかのような偽装申請まがいの助言を教団側にしていたとされている。  そして前出の大川総裁の言葉からもわかる通り、仮に幸福の科学がマトモな申請内容を取り繕ったとしても、大川総裁にも教団にも申請内容通りの大学にする気などない。  〈終わりなきカルト2世問題の連鎖<短期集中連載・幸福の科学という「家庭ディストピア」1>〉で紹介した元2世信者は、こう語っている。 「教団の中での常識がおかしいということは、教団の外で生活すればすぐわかるようになる。私自身は、いまだにその価値観に縛られているという実感はありません」  この2世は信仰を捨てたが、仮に信仰を捨てなくても、一般の学校に通い外界に触れ信仰が異なる人々と親交を持つことで常識や社会性を身につけることは決して不可能ではない。信仰を保ちつつ他人を傷つけず自分の人生も破壊しないための選択肢は、本来いくらでもある。  2世信者たちは、その信仰を自分の意思で選ぶわけだはない。親が信者だから自分も信者にならざるを得ない、あるいはそれをおかしいと思うことがないような環境で育ってきたというだけだ。そうではない環境で客観的な知識や社会常識を身につけることができる機会が学校や職場だろうに、「学校」教育の中で教団の方針にからめとられオカルト教育と偏った政治教育に染められて、将来の選択を狭めてしまっている。  HSUは今年の春に一期生が卒業したが、就職希望者の4割近くが「幸福の科学グループへの奉職」した。つまり清水富美加と同じ「出家」だ。高卒で、4年間、就職でも進学でもない時間を過ごし、社会的に批判を浴びている宗教団体で出家した若者。仮に将来、彼らが信仰を失ったりクビにされたりして(幸福の科学では「還俗」と称して職員を解雇することが多々ある)社会に放り出されても、学歴も一般社会人としての経験もないまま歳を重ねたという経歴上のこのハンデは二度と取り戻せない。  大学が認可されれば、信者たちは形式上の「大卒」という経歴が手に入るようになる。しかしそれだけだ。前述のように社会から批判されるような教団の活動には拍車がかかる。高卒より大卒の方が就職は有利かもしれないが、「幸福の科学大学」の社会的評価が学生にとって有利に働くとは考えにくい。それでいて、大学になれば今以上に、教団による若い信者の囲い込みは加速するだろう。  こんな「大学」に、行政が加担していいはずがない。 <取材・文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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