パンクの社会批判のスピリットを保ちながら、世界のロックの頂点にまで立ってしまった存在がU2。今や世界の政治的首脳やローマ法皇とも対話ができるほどのロック界でも貴重な存在だが、本作はそんな彼らの出世作。
彼らのシグネチャー・サウンドとなる、ジ・エッジによる哀愁の鋭角ギターに乗りながら、1972年に北アイルランドでイギリス軍がデモ行進の市民を虐殺した「血の日曜日事件」を歌った「Sunday Bloody Sunday」や、ポーランドにおける民主化の口火を切った、レフ・ヴァウェンサ率いる労働組合「連帯」についての「New Year’s Day」などを、芯の通ったハイトーン・ヴォイスでボノが力強く歌い上げる。
勢い、時代が国際的にバブル的な軽さに流れていた‘80年代に、ポップな曲ばかり並ぶ中に忘れてはならない鋭い言葉と叫びをU2は投げかけた。
『Life’s A Riot Spy Vs Spy』Billy Bragg(1983)
『Life’s A Riot Spy Vs Spy』Billy Bragg(1983)
年代通して“軽さ”が求められた、国際的にバブリーなイメージが強い‘80年代だが、イギリスはロック史に残るヴィレン(悪役)、マーガレット・サッチャーの時代で、彼女にプロレストを示すアーティストが数多く登場した。同国きっての論客フォークシンガー、ビリー・ブラッグ(Billy Bragg)はその急先鋒だった。
1983年発表のこのデビュー作で最も象徴的なのは「To Have And To Have Not」。「工場は閉鎖されて、軍隊ももういっぱい」と、サッチャーの進める民営化に伴う失業者増と軍拡を責めつつ、さらに「だからって、俺が怠け者だとか、時代に取り残されてるとかって思うなよ」と切り返す。「やることはないが、ちゃんと物事は考えている」。これはパンク以降、この国の音楽家たちが音楽に向かいあう際に抱く伝統的なメンタリティでもある。