何気なく利用する「クラウド翻訳」のリスク。Firefoxのオフライン型翻訳機能実装計画から考える

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Firefoxが、クライアントサイドの機械翻訳機能を計画

 Webブラウザの Mozilla Firefox が、クライアントサイドの機械翻訳機能を搭載する計画を進めている(参照:gHacks Tech News)。  Google Chrome では、Webページの翻訳機能があるが、それは Google 自体が翻訳サービスを持っているから、そうした機能を実装できる。同じ機能を Mozilla が Firefox に組み込むには、越えないといけないハードルがある。  多くのWebサービスでは、個人が少ない頻度でしかアクセスしない場合は、無料にしていることが多い。しかし、1人や1社が大量にアクセスをおこなう場合には料金を取る。Webブラウザの機能として、Webサービスを組み込めば、そうした大量使用と見なされて、料金を支払う必要が生じるというわけだ。  そうしたことから、デフォルトで有効な機能としての提供は、料金を支払うか、何らかの提携を勝ち取る必要がある。そうでないのならば個別にユーザーが設定したり、機能追加したりする形にせざるをえない(参照:Firefox ヘルプ)。  自社で翻訳機能を持つことができれば、そうした問題を解決できる。

クラウド時代のプライベートとセキュリティ

 しかし、Mozilla Firefox が、クライアントサイドの機械翻訳を進めているのは、そうした金銭的な理由からだけではない。実はそれ以外にも大きな理由がある。それはプライベートやセキュリティへの配慮だ。  クラウドを利用した翻訳サービスが、どういった仕組みになっているのか、意識している人は、どれだけいるだろうか。クラウドの翻訳サービスは、文章をいったんサーバー上にアップロードして、クラウド上で翻訳したあと翻訳結果をダウンロードする。  つまり、いったん翻訳サービスに全文を送り、その翻訳結果を受け取っているのだ。送った文書は翻訳サービスが自由に複製できる。社内の人間が、翻訳の質の向上のために読む可能性もある。社外に流出する危険性もある。  こうしたサービスを利用する際、公開されているWebページを翻訳するだけなら問題はない。しかし、ログインが必要なページを翻訳した場合はどうなるのか。当然、そのテキストをサーバーにアップロードしなければ翻訳できない。  ローカルの文書を翻訳した場合はどうなるのか。もちろん、サーバーにその文章を送ることになる。個人的な手紙や日記、秘密保持契約で守られた情報、契約書、そうした諸々を翻訳すれば、それらは翻訳サービスに履歴として残ることになる。  こうしたことを問題視したとき、Mozilla Firefox が取り組んでいる機能の価値が分かる。クライアントサイドの機械翻訳機能があれば、サーバーにテキストを送る必要がなくなる。サーバーにアップロードしたくない文章を、安全に翻訳することが可能になる。  Mozilla Firefox は、そうした意図を持ち、この機能の計画を進めている。
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