もともとJRに対して終電の早い私鉄があえて繰り上げに追従する必要もないということか。では、深夜1時を過ぎて終電が発車する首都圏ではどうか。JR東日本は終電繰り上げを検討していないという。
「深夜帯の利用者数の動向や保守作業員確保の状況がわからないと確かなことは言えませんが、少なくとも終電繰り上げは利便性を一定程度損なうことは間違いありません。ですから、簡単に終電繰り上げに踏み切れないのも致し方ないでしょう」(境氏)
むしろ、首都圏では2012年に就任した当時の猪瀬直樹東京都知事が都営地下鉄・都営バスの終夜運転を打ち出すなど、終電繰り上げとは逆行した動きが見られたこともあった。実際、猪瀬元知事の旗振りで六本木と渋谷を結ぶ都営バスの終夜運転を曜日限定で実施している。
しかし、このバスの終夜運転は利用者数の低迷や猪瀬元知事の辞職もあって尻すぼみ。2013年冬の開始から1年を待たずに終了している。
「猪瀬元知事は地下鉄の終夜運転にも積極的な姿勢を示していました。その際に先例として挙げられたのがニューヨークの地下鉄。確かにニューヨークでは地下鉄が終夜運転をしていますが、それは
複々線の線路の半分だけを使って残りで保守作業をすることができるから。複線であるうえ、私鉄との相互直通運転をしている東京の地下鉄での終夜運転は現実的ではありません。そもそも
終夜運転は保守作業の問題を横に置いても人件費等の問題であまり効率のいいものではなく、事業者の立場に立てば積極的になれないのは当たり前でしょう」
世界的に見れば、ロンドンの地下鉄が2017年から終夜運転を開始するなど、24時間運転に前向きな事例も見られる。ただ、少なくとも国内、さらに言えば京阪神エリアでは人件費の問題も考えれば終夜運転どころか終電繰り上げのほうが現実に即しているということなのだろう。
「もちろん今でも大晦日から元旦にかけては多くの事業者で終夜運転を行なっていますし、2002年のサッカーW杯でも終夜運転が行われています。来年の東京五輪でも終電を最大90分繰り下げることが決まっているように、今後も状況に応じた臨時の対応は続けられると思います。ですが、長い目で見れば全国的に終電は繰り上げられる方向に向かうのでは」
そもそも、JR西日本がみどりの窓口の無人化を進めるなど、人口減少に伴う人員確保という問題は鉄道の世界でも顕在化しつつある。そうしたなかで安全性を損なわずに業務の効率化をすすめ、同時に職員の待遇を改善していくことは喫緊の課題といえるだろう。そうした視点に立てば、30分程度の終電繰り上げなら利用者も受け入れるしかなさそうである。
<取材・文/HBO編集部>