橋下氏勝訴の判決を出した大阪地裁 19年9月12日
「ソーシャルネットワークサービス(SNS)で第三者の投稿をリツイートしただけで名誉毀損に問われ、賠償金を支払わされる」という判決が大阪地裁で出された。
大手メディアが「リツイートで名誉毀損」「リツイートは賛同行為」と伝えたため、この一審判決は確定していないのに、SNS上では「私たちもリツイート、フェイスブックでシェアなどをする時に気をつけなければ」などと自粛を呼び掛ける投稿が目立っている。
この裁判は、「日本維新の会」創設者、元大阪府知事・大阪市長の橋下徹弁護士が2017年12月、インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)の岩上安身代表を被告として、110万円の損害賠償を求めた名誉毀損訴訟(本訴、岩上氏も反訴)。大阪地裁第13民事部(末永雅之裁判長、重髙啓右陪席裁判官、青木崇史左陪席裁判官)は9月12日、岩上氏に33万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
岩上氏は判決後の記者会見で「仰天した。予想よりずっと悪い判決だ。橋下氏側の主張がそのまま受け入れられた不当な判決だ」と述べ、13日に大阪高裁へ控訴した。岩上氏の弁護団(団長・梓澤和幸弁護士)は11月2日までに控訴理由書を高裁へ提出する。岩上氏は「ネット空間における言論の自由を守るために身を呈して戦う。欠陥判決が確定判例になれば、将来に著しい禍根を残す」と述べ、高裁での逆転勝訴を目指している。
末永裁判長が大阪地裁1010号法廷で読み上げた主文は次のようなものだった。
<1本訴被告は、本訴原告に対し、33万円及びこれに対する平成29年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2本訴原告のその余の請求を棄却する。
3反訴原告の請求を棄却する。
4訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを5分し、その1を本訴原告・反訴被告の負担とし、その余を本訴被告・反訴原告の負担とする。
5この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。>
判決は本訴における橋下氏の主張を大筋で認め、反訴では岩上氏の主張を門前払いした。
この裁判では、7月4日に行われた第7回口頭弁論(この日に結審)で、原告の橋下氏の訴訟代理人である松隈貴史弁護士(橋下綜合法律事務所)が開廷時間の10時半になっても法廷に現れず、書記官が廷内から事務所に電話を何度もかけて捜索する異常な出来事があった。松隈氏が、法廷が分からずに民事第13民事部に立ち寄ったことが分かり、その数分後に法廷に入った。約15分の遅刻だったが、松隈氏は裁判官に向かって軽く挨拶しただけで、被告側には謝罪もせずに着席した。末永裁判長は松隈弁護士に注意もせず、何事もなかったように開廷した。
末永裁判長の訴訟指揮は、原告の橋下氏に有利な形で進められてきていたので、橋下氏寄りの判決が出ることもあるとは思ったが、裁判所が公人同士の言論上の争いに介入するのをためらい、本訴、反訴ともに請求棄却にするのではと予測していた。私には想定外の判決だった。
筆者も判決を何度も読んだが、末永裁判長はSNSの機能と実態について、独自の解釈をしており、岩上氏のリツイート行為で名誉毀損を成立させた理由づけには問題が多いと思われる。
また、この民事裁判は、原告も被告も著名な公人中の公人で、「表現・論評の自由を守るため、名誉毀損の認定は刑事、民事ともに抑制的に」という従来の法解釈を逸脱しており、原審が確定すればSNS上での自由な言論にとって大きな障害になる危険性がある。
橋下氏の影響下にある「維新」と安倍官邸は、憲法改定などの政治課題で協力関係にあり、岩上氏の支援者からは「安倍官邸に忖度した法務官僚の結論が先にあった不当判決だ」という声が上がっている。