大阪弁護士会館で報告集会を行う岩上安身氏
発端は、岩上氏が2017年10月29日、同月25日に一般市民による「橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか! 恥を知れ!」というツイートを、コメントなしで1回リツイートし、数日後に削除したことだった。
元ツイートの投稿者は、2017年10月の衆院選後、丸山穂高衆院議員(当時、日本維新の会)がツイッターに「議席減の衆院選総括と代表選なしに前に進めない」などと松井一郎代表を批判する投稿を行ったことに対し、橋下氏が「口のきき方も知らない若造が勘違いしてきた。言葉遣いから学べ」「代表選を求めるにも言い方があるやろ。ボケ!」などと罵倒するツイートを繰り返していたことを問題にした。
元ツイートは、橋下氏が大阪府知事の時、20歳以上も年上の幹部職員に対して生意気な口をきき、職員を自殺に追い込んだことがあったではないかと指摘した上で、激しく非難していた。橋下氏は岩上氏に対し、事前の通知を行わず、「パワーハラスメントをする人物だという印象を与えた」として提訴した。橋下氏側は、岩上氏のリツイートによって受けた被害を立証しなかった。
この裁判を「リツイートスラップ訴訟」と捉える岩上氏の弁護団(梓澤和幸弁護団長)は「リツイートを表現行為として名誉毀損に該当すると判断し、リツイート内容に含まれる事実関係に関する真実性・真実相当性についての岩上氏の主張を排斥した。
SNSという双方向性の言論空間で、他人のツイート行為を単純にリツイートしたに過ぎない。公人に対する批判的意見の表明は、表現の自由(憲法21条)の観点から最大限に保障されなければならない。この精神にもとる不当判決を放置することはできない」とする声明を発表した。
梓澤団長は会見で「名誉毀損裁判で、裁判官は自分の勝手な読み方をしてはならない。憲法は公人に対する批判的な言論を保証しており、相手に対する強烈な批判であっても許容される。自殺に追い込んだという元ツイートの投稿が、閲読者にどのように受け取られたかを読むのが裁判官に託された仕事のはずで、判決のような認定はあり得ない」と述べた。
一方、原告の橋下氏は判決後、自身のツイッターとブログで「岩上安身氏からツイッターによる執拗な攻撃を受け続けてきましたが、一審で勝訴しました。リツイートはフェイクニュース拡散の元凶です。リツイートにも一定の責任が生じます。皆さん、気を付けましょう」「元ツイートに意見があるなら、コメントを付してリツイートしましょう。単純リツイートするならば、元ツイートの真偽を確認しましょう。リツイートにも一定の責任を求め、ツイッターの世界での名誉毀損拡散に歯止めをかける裁判例」と投稿した。
「他人のツイートをリツイートしたら名誉棄損となる」という異様な判決。この裁判は高裁でどうなるのか。今後の動向が注目される。
<文・写真/浅野健一>