フェミニストも納得する「ポルノ」とは? 独ベルリンのポルノ映画祭で考えるポルノの意味、そしてその力

ベルリンでオルタナティブ・ポルノの映画祭が開催された

ベルリンポルノ映画祭 10月22日から27日の5日間、ベルリンで第14回目のベルリンポルノ映画祭(the Pornfilmfestival Berlin)が開催された。  性、政治、フェミニズム、ジェンダーをテーマにしたインディーズ、オルタナティヴ映画の祭典である。クラブカルチャー、パンクカルチャーが根強いベルリンならではの映画祭だ。旧東ベルリンに位置する3つの独立系映画館を貸し切って大掛かりに開催されたこの映画祭、いつ行っても人混みが途絶えることはなかった。  ちなみにこの映画祭に感化され、ロンドンでもポルノ映画祭が2017年より毎年春に開催されている。ヨーロッパでオルタナティヴ・ポルノの社会的認知度が徐々に上がってきたと言っても過言ではないだろう。

女性を過度に客体化する「悪い」ポルノに対抗するオルタナティブ・ポルノ

 そもそもオルタナティヴ・ポルノとは何か。  1970年代のアメリカはポルノ映画の黄金期だった。「ディープ・スロート」(1972年、ジェラルド・ダミアーノ監督)、「ミス・ジョーンズの背徳」(1973年、ジェラルド・ダミアーノ監督)と70年代初頭は続々とポルノ映画が公開され、空前のヒットとなった。  ちなみに上記の映画は、東映系の洋画配給会社・東映洋画が輸入し、日本でも公開された。この一連のポルノブームは米国で「ポルノ・シック(=おしゃれポルノブーム)」と呼ばれ、当時のポップカルチャーに多大なる影響を及ぼした。  もちろんこの「ポルノ・シック」は全ての人に歓迎されたわけではない。このポルノのメインストリーム化は当時の女性活動家間に論争を呼び起こした。「ポルノ戦争」と呼ばれるこの論争は反ポルノ女性運動家である、アンドレア・ドウォーキンセクハラ問題の第一人者であるキャサリン・マッキノンに対し、ナディア・ストラッセンゲイル・ルービン反検閲、ポルノ擁護派女性運動家が2つの陣営に分かれて対立し、てポルノの是非を問うたものだった。  中でも、自身もポルノ女優である性活動家アニー・スプリンクルは「悪いポルノへの答えはそれを根絶することではなく、より良いポルノを作ることである」と声高に表明し、「より良い」ポルノ、つまり家父長制的でなく女性差別的でないポルノを作ることの大切さを謳っている。  また、フェミニスト映画研究家のリンダ・ウィリアムズはその著作「ハードコア:権力、快楽、そして顕在化への乱心(Hard Core: Power, Pleasure and the Frenzy of the Visible)」(1989)で主要ポルノ産業に女性の視点を取り入れることの重要性を説いた。  このような流れの中で、2000年代から欧米諸国では女性向け(フェミニスト)ポルノ、LGBTQ向けポルノ、アートポルノなど、既存のポルノの枠組みに捉われない新しいポルノを作ろう、という動きが出てきた。このようなポルノ全てを包含する意味として、オルタナティヴ・ポルノという言葉が使われるようになった。女性を過度に客体化する「悪い」ポルノに対して、もっと男女平等に性の喜びを描くことに重きを置くのがオルタナティヴ・ポルノの要である。
次のページ
ファイト・クラブのパロディ「フィスティング・クラブ」
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会