Ms / PIXTA(ピクスタ)
「浸水被害のあった物件に住み続けることはできますか? 不動産価値は暴落しますか?」
昨今よく問われるテーマであるため、差し押さえ・不動産執行の現場で不動産値付けに携わる立場からも少しこのテーマに触れてみたい。
まずは10月12日に首都圏直撃となった台風19号の被害に遭われた方へお見舞い申し上げると共に、家屋の浸水部分(特に軒下)は清掃の後、扇風機やファンによる送風・換気で乾燥を早めることが出来、今後の耐久性不安も大きく軽減されるという言葉を送りたい。
この言葉から感じ取れる部分もあるかとは思うが、「浸水被害のあった物件に住み続けることはできますか?」に対する答えはこのようなもの。
浸水被害があろうとも、破損があろうとも、屋根が飛ばされようとも、倒壊の危険性が無い限り補修や処置を施すことで十分に住み続けることができると考えている。
実際に年間100軒ほどの家にズカズカと上がり込む仕事をしているわけだが、外から眺めて惚れ惚れするような物件も、大半はなんらかの不具合やトラブル、ダメージを抱えており、住人もこれら問題点とともに暮らしている。
床抜けが複数箇所ある、天井が剥がれ落ちている、盛大に傾いている、日常的に屋根がビニールシートといった物件に出会うこともあれば、車庫入れの際に誤って突き破ってしまった壁をベニヤ板で補う物件、ボヤ騒ぎから一部黒焦げのままに生活が送られる物件もあった。
「マイホームを常に完璧に近い状態に保ち続けなければ不安」といった価値観はリフォーム業者の推し進めたい思想であり、「より良い暮らしのために住み替えを」との発想は不動産業者の思惑でもあるため、安易に鵜呑みにすべきではない。
それより少し手を入れてやるだけで雨風しのげる場所がある、帰れる場所があるというありがたさを享受すべきではないだろうか。
改めて冒頭の「不動産価値は暴落しますか?」との問いにも触れてみたい。
各自治体の出しているハザードマップを見ても分かる通り、大多数の罹災地域は既に「危険性がありますよ」と示されている。
そのため、既に“
危険性を考慮した値付け”がなされており、ここから土地価格が大きく値下がりすることはまずない。
実際に競売の最中に浸水被害が発生したという際にも、
3点セット(物件明細書、現況調査報告書、評価書)に浸水被害の恐れが濃厚に記されていた場合にはそのまま競売が進められるケースも有り、
再調査の必要性ありと判断された場合にもさほど値段は下がらないケースがほとんどだ。