関電資金還流事件と高浜発電所空撮からわかる、関電の「身の丈」に合わない投資

費用対効果が低い四基再稼働

 現状でも報じられている高浜発電所の再稼働へ向けた事業費は6000億円規模であり、公共事業等を含めれば更に1千億円は増えると思われます。今後の必要投資額を合わせれば総額1兆円程度となり得ますが、それにより得られるのは最大3.4GWeで15〜25年程度、2020年以降の設備利用率50〜70%程度の発電所ですので算盤が合いません。  高浜発電所は、三号炉四号炉は、手頃で優れた原子炉且つ、残余炉寿命が十分にありますし、敷地の規模に対しても運用二基なら適正規模と思われます。結果として投資額も大きく低減できていたでしょう。  目安としての炉寿命40年を迎えた原子炉を20年、更に20年延長して運転することは合衆国を筆頭とした世界の大規模原子力国での趨勢ですが、それは追加投資を大きく要しないことが前提となっています。  高浜発電所の場合、1兆円に迫る投資を要していますので投資効率はたいへんに低いと言うほかありません。このことは、2011年にはすでに自明であって、あり得ないほど楽観的な見込みを公言して事業への株主からの同意を取り付け、結果として事業費は雪だるま式に膨らみ、戦力逐次投入の愚に至るという想定通りの典型的失敗を犯しています。これ自体が、経営陣の特別背任に当たるのではないでしょうか。合衆国なら株主代表訴訟で全員丸裸で、不正が見つかれば塀の中でしょう。  なぜかよく知られていませんが、加圧水型(PWR)原子力発電所の場合、原子炉建屋以外は基本的に一般の火力発電所と同じ扱いですので、解体着手は容易且つすぐに解体できます。  過去の原子力安全最後進国日本のやり方が通用しないことが明確となってからすでに9年近く経過していますので、高浜一号炉、二号炉の非管理区域(放射線管理区域外)については完全に更地となっていても不思議ではありません。これがタービン建屋まで放射線管理区域であるBWR(沸騰水型原子炉)に対するPWR最大の長所です。  敷地余裕の広さと動線の合理性は、安全に直結します。また、特重などへの投資も圧倒的に楽になることは言うまでもありません。  電力事業としては殆ど意味の無い高浜一号・二号炉への投資によって、千億円単位のお金を無駄に垂れ流し、立地自治体への裏工作に明け暮れてきた。結果として投資として有意な高浜三号炉・四号炉への投資効率を著しく劣悪にしてきたのが関西電力経営陣の実績です。  今回明らかとなった、関電裏金還流事件は、関電疑獄事件(政治問題化した大規模な贈収賄事件)と称せるほどに深刻化しかねない情勢ですが、まさに身の丈に合わない、経済的、経営上の合理性を欠いた投資を長年続けてきた総決算ともいえます。  自治体と一体化した長年の不正行為や不透明な行為、長年噂されてきた邪魔になる行政職員や議員、有力者への襲撃や暗殺疑惑など、あらゆる過去の汚辱が吹きだしまさに地獄の釜の蓋を開けた様相です。しかもこれで検察がまともに動いていません。これはまさに国家の腐敗と機能停止であって、末期症状というほかありません。  今回明らかとなった関電裏金還流事件と、見て見ぬふりと責任逃れに終始する国を見て、そのような国に、商用原子力利用を行う実力があるとは到底考えられないというのが、正直な感想です。

おわりに

 今回、秋田放射能測定室「べぐれでねが」の「めたぼ」さんから、空撮写真を提供していただきました。空撮によって多くの情報を得ることが出来、これまでの不明点が数多く明らかとなりました。  今後も空撮写真などを用いてより詳しく様々な事柄を記事化してゆきます。今回は、めたぼさんに大変お世話になりました。ここでお礼申し上げます。  秋田放射能測定室は、多くの方の寄付で支えられています。個人規模でGe検出器式の装置を運用するのはたいへんに困難ですので、ご関心があればこちらをご覧ください。 <取材・文/牧田寛 写真提供/秋田放射能測定室「べぐれでねが」>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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