「TAO PO」では数々の受賞歴を持ち、自身も政治活動家である女優マエ・パナーが一人芝居として、4人の「薬物戦争」に関わったキャラクターを演じる。
「薬物戦争」の犠牲者の写真を納めた写真ジャーナリスト、夫と息子を亡くしたズンバ・インストラクターの中年女性、自警団として殺人に関与したショット・マン、両親を無くした孤児。それぞれの立場から描かれる物語は心を打たれる。涙なしには観劇できないだろう。
全てのストーリーが実在する人物から構築されており、劇場外の待合スペースには写真ジャーナリスト、ラフィー・レルマ氏による実際の写真が布にプリントされ、まるで洗濯物のように展示されていた。
物語の最初の登場人物、マエ・パナー演じるレルマ氏はフィリピンの新聞会社で首都マニラ中心部をメインに担当する写真家として12年間働いていたが、「薬物戦争」の後、独立しフリーランスとして活躍することを決意。これは、フィリピン世論がドゥテルテ大統領の政策に好意的のため、「薬物戦争」の被害者の写真を撮り続ける事への風向きの強さを示唆している。
第二幕では、パナー氏は陽気で明るいズンバ・インストラクターに扮し、ズンバを踊りながら、夫と息子との思い出を語り始める。当初は文脈が不透明だったが、徐々に彼女の夫と息子が夜な夜ないきなり家宅侵入してきた覆面の人物に射殺されたことが判明する。これは後に主催側との話でわかったことだが、この物語は被害者が「犯罪者」と言う括りになっているため、公に家族を失った悲しみを表せない、またいかに悲しみに暮れようとも日々の生活のために働かなくてはいけないリアルな女性の話である。
第三幕は、自警団として殺人に関与したショット・マンの物語である。ある日警察に呼び出され「いい仕事がある。血は大丈夫か?」と聞かれ、「自分は豚や鶏を食用のために殺したことがある、大丈夫だ」と答えたことから、自警団として人を殺めることになった。一人殺したら2万ペソ(約4万4000円)。フィリピンの物価を考えたら高額だ。特に貧困層ならなおのこと。
とある家庭に押し入って、夫婦を射殺した後に子供を殺すことをためらっていた際、「ここでこの子供を殺さないと、こいつが大人になったら復讐しに来るだろう」と言う名目で4歳の子供までも殺害。ここで子供までもが犠牲になったことが浮き彫りになる。
第四幕は、両親を亡くし孤児になった少女。ブロック状の共同墓地の前で「薬物戦争」の犠牲になった人々にキャンドルを捧げる。彼女の両親も、夜に突然現れた覆面の人物に射殺されたのこと。また、あまりにも犠牲者が多いので、両親の死体は切断され、1つのブロックに押し込まれたと言う。「死んでも一緒だなんてね」と、彼女は両親を哀れむ。亡くなった人々の名前を叫びながら、キャンドルに火を灯す少女。ここで示唆されるのは1つの村で何人も殺され、その数が膨大、と言うことだろう。