マンゴー農園の中にあった神木
日本の神社などでは「神木」が祀られていて、ときにはパワースポットなどとして観光名所のひとつにもなっていることがあるだろう。タイも、先のように樹木に神が宿ると信じていることから、全土的に神木が多数見られる。
ただ、日本と違う点は、日本の場合は神社、あるいは寺院にあるケースがほとんどだが、タイの場合は逆に寺院や祠(日本の神社に相当するもの)にある神木より、市街地、住宅街など、日常生活に密接した場所にあることが多いことだ。タイに入ってきた上座部仏教は、元々あった精霊信仰と習合していて、近隣諸国の上座部仏教とも異なる部分が見られる。それほどタイの精霊信仰は根強く残っており、しかも今でもタイ人の生活に寄り添っていると言える。
街中にある神木には布が巻かれ、供え物が置かれている。目的は様々あるようで、家内安全や近隣の交通安全、それから商店やビジネス街に近いと商売繁盛などを祈るケースもある。共通しているのは、タイでは樹木に宿る精霊は基本的に女性であると考えられていることから、食べものを供えるには甘いものが多く、古典舞踊などで見られる女性用の民族衣装などが供えられている。
タイの上座部仏教で利用される供え物セット
こういった神木や神が宿るとされる祠、それから岩などの自然物が道路に面している場合、タイ人は車やバイクで通行する際にはクラクションを3回ほど鳴らしていく。「今から通ります」あるいは「守ってください」といったニュアンスがあるのだろう。タイは銃社会であることなど様々な要因から、トラブルを極力避けるためにクラクションはできる限り使用しない。しかし、逆に精霊に対してはクラクションを鳴らしてしまうので、日本人の感覚からするとちょっと奇妙に見えたりもする。
交通事故多発地帯と見られる場所に設置された祠には民族衣装が大量に供えられていた
タイは街中に今でも不思議がそこかしこに存在している。日本も奇妙な風習や、独特で神々しいものというのはある。しかし、日本で生活しているとそれが普通に見えて気がつかないものだ。タイに来れば、その旅行自体が非日常なので、そういったことが目につきやすい。こういった霊的、宗教的な不可思議もまた、日本人がタイ旅行を刺激的に感じるひとつの理由なのかもしれない。それであれば、逆にそういった事柄に特に注目してタイを歩き回ってみるのもいいかもしれない。負の遺産を巡る「ダーク・ツーリズム」が一時期注目されたが、「ゴースト・ツーリズム」というのもひとつの旅として提案したい。
タイや東南アジアの霊的スポットを紹介する書籍「亜細亜熱帯怪談」(晶文社)が出版されている。アジアのゴースト・ツーリズムの参考にどうぞ
<取材・文・撮影/高田胤臣>